インドネシア発配車アプリ「Gojek(ゴジェック)」の創業者ナディム・アンワル・マカリム氏=写真、公式サイトより=は1984年、シンガポールで生まれた。中高はインドネシアに学び渡米、ブラウン大、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で学んだ。世界的コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーやフィンテック企業などを経て、2010年にゴジェックを立ち上げた。
わずか20台ほどのオジェック(バイクタクシー)のコールセンターから出発。ジャカルタの深刻な渋滞と、街角で客を待つオジェックの「無駄な待ち時間」という二つの不便をスマートフォンでつなぐという発想で、15年のアプリ化後は配車やフードデリバリー、宅配、決済へと次々に事業を広げ、グーグルなどから巨額出資を受ける巨大企業へと成長した。
教育改革を実施
19年、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)前大統領が組閣した第2期政権で、ナディム氏は教育文化相として政界入りする。
最年少の閣僚として起用され、「ユニコーン創業者が教育制度を作り変える」という期待を一身に集めた。
就任直後に打ち出したのが「ムルデカ・ブラジャール(学びの自由)」。全国統一学力試験の廃止と、新しい全国学力評価への移行、学校試験の簡素化などを一体パッケージで進め、試験対策中心から学びの質重視へとかじを切ろうとした。
高等教育では「カンプス・ムルデカ」を掲げ、大学の自律性と実践教育の拡大を図った。一部国立大学を独立法人化したほか学生が企業や地域、他大学でのインターンやプロジェクトに参加し、それを単位認定できる仕組みを整備した。 こうした初等教育と高等教育の改革を束ねる「MBKM」は、経済協力開発機構(OECD)が実施する生徒の学習到達度調査(PISA)での学力低迷に揺れる教育システムを抜本的に作り変える試みとして、国内外から一定の評価を受けてきた。
汚職容疑で逮捕
しかし今年9月、ナディム氏は汚職容疑で検察に逮捕された。問題となったのは、19〜22年に教育文化省が学校向けに大量導入した米グーグル製のクロームブックの調達である。当事業は数兆ルピア規模とされ、コロナ禍での遠隔学習や「デジタル化された学校」の中核的施策として位置付けられていた。
だが検察当局は、調達仕様が特定製品に有利になるよう設計され、価格も相場より高く設定した疑いがあるとして、国家に巨額の損失を与えた疑いで逮捕に踏み切った。
検察は教育省幹部や関連業者を相次いで拘束。ナディム氏も「自分は不正をしておらず、政策判断として正当だった」と容疑を全面的に否認している。しかし、かつての創業企業ゴジェックを中核とする持株会社GoTo本社が関連として家宅捜索を受けたこともあり、かつての「インドネシア企業の星」だったブランドに大きな傷がついたことは否めない。
