連載特集記事 インドネシアの無償給食(下)

2025-11-11 05:10

日中印が国際支援

衛生・運営両面の向上目指す

 インドネシアのプラボウォ・スビアント政権が力を入れる無償給食プログラム「Makan Bergizi Gratis(MBG)」は海外からの支援を積極的に取り付けている。日本の学校給食の衛生管理、インドの大規模給食の運営体制といった技術面に加え、中国からは資金を調達した。MBGは今年1月から開始されたが、食中毒が各地で続出し批判が高まっている。インドネシア政府は国際援助により衛生、運営の両面で質を高めることで、信頼回復につなげたい考えだ。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文)

西ジャワ州ボゴール市の中学校で、MBGを食べる生徒=10月、アンタラ通信

日本は衛生管理を指導

 日本は今年1月、西ジャワ州ボゴールの大統領宮殿で石破茂前首相とプラボウォ大統領が会談した際、MBGに協力することを決めた。学校給食の訓練実施や専門家派遣、農業・水産の供給インフラ強化などを含むパッケージで、インドネシア側は省庁横断で具体化を進める方針を示した。


 これを受け、国際協力機構(JICA)が5月下旬〜6月上旬にかけ、愛知・静岡両県でインドネシア政府関係者を対象とした、大量調理時の衛生管理をテーマとする学校給食研修を実施した。研修には保健省、初等・中等教育省、宗教省、国家栄養庁(BGN

)のモニタリング部局や給食センター(SPPG)長らが参加した。


 研修では実際の給食センターで現場を見学するなどし、調理員の動線管理や現場マネジメントの手法を実地で学んだ。さらに、自治体主導の地産地消の取り組みも視察し、インドネシア側の参加者は小学校で児童とともに給食を試食した。

中国は器提供、しかし…

 さらに、プラボウォ大統領は中国からの支援も取り付けている。政権発足直後の昨年11月に初の外遊先として北京を訪問し、習近平国家主席との首脳会談でMBGへの協力の覚書を交わした。この覚書によると中国は資金援助を約束し、MBGの安定実施に向けた財政面での後押しを行う。


 インドネシアは民間レベルでも中国と協力関係を結ぶ。インドネシア商工会議所(KADIN)は今年5月、中国の国内商工団体と提携し、1千カ所の給食センターを建設する覚書を交わした。


 こうした協力関係の中で、MBG開始直後に中国製の食器トレーが大量に輸入されたが、8月ごろに「トレーにイスラム教でタブーとされる豚由来の油脂が使用されている」との疑惑が浮上。インドネシア側が中国の工場を視察した結果、問題はないと確認した。ただ、政府は保護者の不安を払しょくするため、国内でトレーの生産拠点の整備を急ピッチで進め、10月時点で38工場が稼働している。BGNによれば、トレーの年間需要は約7千万枚に達する見込みで、数を補うため当面の輸入は認めつつ、完全国産化を実現したい考えだ。

インドはノウハウを伝授

東ジャワ州ナンジュク県タンジュンアノムの給食センターで栄養士と作業員がMBGを調理している=10月、アンタラ通信

 インドは1995年から「プラダーン・マントリー・ポーション(旧ミッドデー・ミール)制度」により1億人以上の児童に給食を提供しており、これは世界でも有数の規模だ。今年1月、インドのニューデリーで行われたプラボウォ大統領とナレンドラ・モディ首相との会談でインド側はこの無料給食制度の運用ノウハウをインドネシア側に共有する用意があると表明した。続いて先月末に開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)・インド首脳会議で、インドネシアのスギオノ外務大臣は「MBGの開発においてインド政府との協力にオープンである」と演説し、インド側も快諾した。


 具体的には、インド政府がインドネシアのMBG担当者に対し技術的助言や研修を提供することで合意している。その焦点は給食の品質管理やモニタリング体制の強化、組織運営のノウハウ共有に置かれている。

シンガポールは軍が協力

 シンガポールも近隣国として先月、シンガポール軍がインドネシア国軍(TNI)の将兵34人を受け入れ、大規模給食管理について研修を行った。研修ではメニュー計画、キッチンの運営、食品安全から配膳に至るまで国際レベルの大量調理管理を学び、栄養管理や最新調理技術に関する知見も吸収した。


 MBGは約1割もの国家予算を投入する前代未聞の巨大プロジェクトだ。プラボウォ大統領にとって効率的かつ安全に給食を全国の学校に届けられるかが、政権安定のカギとなる中、海外からの援助を最大限に活用する必要がある。(終)