国営ガルーダ、続く赤字体質
新経営陣の手腕問われる
インドネシア国営ガルーダ・インドネシア航空は長年にわたり経営不振に陥ってきた。政府は資本注入や債務再編などで支援してきたが、高コスト構造が解消されず、再建は遅々として進まない。米ボーイング社製大型機の大量導入による路線拡大などに活路を見出す中、外国人取締役を含む経営陣の手腕が試されている。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文)
コスト、規制が足かせ
ガルーダは近年の燃料費高騰のほか、機体のリース料の高さや非効率的な機材管理が高コスト構造の要因として指摘されてきた。2020年のコロナ禍前から航空機リース料は高い水準で、エアバスやボーイングなど製造元が異なる機材を同時に使用することが整備コストを押し上げ収支を悪化させてきた。
加えて、ガルーダ経営陣からは、インドネシア政府の航空運賃上限規制によりチケット価格の自由な値上げが難しく、国内線運賃の上限は19年以降据え置かれたままで運賃収入を伸ばすには限界があると主張する声が上がっていた。
消えぬ汚職体質
汚職体質も再建の足かせとなってきた。05~14年に最高経営責任者(CEO)を務めたエミルシャ・サタル氏は、11年にボンバルディアや欧州航空機メーカーATRからの機材を不透明な手続きで調達し、国庫に約6億1000万ドルの損失を与えた罪で昨年に禁固5年判決を受けた。同氏はさらに20年にもロールスロイス製エンジンを搭載したエアバス機の機材調達で賄賂・資金洗浄が認定され、禁固8年の実刑となっている。
19年末には当時のアスカラCEOが新造機で私物の高級バイクや自転車を密輸しようとした事件が発覚し、解任された。この騒動で同社の最高財務責任者(CFO)が暫定CEOに就くなど経営トップが相次ぎ交代した。
さらに、当局はガルーダに対し18年決算の訂正を命じるなど会計監査の問題も露呈し、ガバナンス不全が深刻化している。
経営難に政府乗り出す
ガルーダの財務状況は非常に厳しい状態が続いている。昨年の通年の収益は前年比16%増の34億ドルと増収を果たしたが、最終損益は約6900万ドルの赤字となり、23年に計上した2億5200万ドルの黒字から一転して赤字に転落した。今年上半期でも純損失は約1億4400万ドルに達し、損失規模は前年同期に比べて約4割増大した。昨年末時点で負債総額は約50億ドルにのぼり、総資産よりも4・63億ドルを上回る債務超過状態が続いている。
深刻な財務状況に陥ったガルーダは政府の後押しがなければ、追加の資金調達は極めて厳しい状況にある。そのため、政府はガルーダに対し資本注入や再編支援策を講じてきた。22年6月には裁判所監督下の交渉で債務を約100億ドルから51億ドルに半減させ、航空機リース料の大幅引き下げにも合意した。
今年に設立された政府系ファンドのダナンタラも支援の手を差し伸べ、6月に4億500万ドル(約6.65兆ルピア)を融資。これは最大10億ドル規模ともされる包括支援策の一部で、同社の航空機整備・修理や運航維持費用の穴埋めに充てられた。さらに、10月には株主総会で最大14億4000万ドルの追加資本注入を提案する予定と報じられている。
役員に海外人材登用
政府は経営陣にもテコ入れを進めた。今月15日にプラボウォ・スビアント大統領の古くからの友人である元陸軍中将、グレニー・カイルパン氏が社外取締役から内部昇格し、「身内をトップに登用することで組織のグリップを確実なものにした」(政府関係者)。さらに、プラボウォ氏が国営企業改革の一環で打ち出した海外人材の役員登用の適用例として、10月にシンガポール航空で25年以上勤務したバラゴパル・クンドゥバラ氏をCFOに、南アフリカ人のニール・レイモンド・ミルズ氏を改革担当取締役に起用。プロ経営者の手腕を最大限に活用したい考えだ。
収益性向上に向け整理進める
ガルーダは運航体制についても見直しを進めている。赤字や低収益の路線を削減し、運航機数はグループ会社のシティーリンクを含めて20年の約210機から昨年末には102機に削減するなど、国内線と収益性の高い国際線に絞る方針だ。新経営陣は米ボーイング機75機を追加導入する方針のため、「輸送力の増強により追加収益を見込める路線をよく見極めて投入することが重要」(航空アナリスト)となりそうだ。
一方、自社単独では需要を取りきれない国際線は大手他社との提携で補完する。その一環として今年4月、日本航空(JAL)と日・インドネシア間路線での共同事業を開始し、両社のインドネシア国内線・日本国内線への乗り継気で利便性を高めた。シンガポール航空とも今年中に提携を拡大し、共同運賃商品の設定やコードシェア便の拡充で合意している。
ガルーダは「来年中に黒字化達成」という目標を掲げている。その実現には政府支援によらず、自ら経営体質を改善し、収益性の高い経営計画を新経営陣の下で実行することが不可欠だ。ヒンドゥー神話に登場する不死鳥ガルーダは、インドネシアの国章にも使われている「国家の象徴」。国の威信がかかった今回の経営改革に大きな注目が集まっている。



