高まる大卒の失業率
即戦力求める採用慣行が壁
インドネシアの若年失業率は慢性的に高止まりしている。特に大卒者の失業は深刻な問題となっており、今年2月時点で大卒以上の失業者が100万人を突破した。コロナ禍後の経済回復も若者の受け皿としては不十分で、「高学歴ほど就職に有利」と明言できない状況だ。その背景には即戦力を求める企業側の採用慣行や、大学での教育内容と実際の業務とのギャップが問題として横たわる。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文、写真も)

名門卒より「コネ」
「企業に100通以上メールしても内定が取れない」ーー。インドネシア大学日本語学科を今年卒業したイルマンくん(仮名、23)はこう嘆く。同大は日本の東京大学に当たる国内最高学府であり、引くてあまただと思いきや、どうやらそうではないらしい。「日本と違って新卒一括採用ではないので、親や自分の知り合いに頼るしかない。でも、今は不景気だからそれもダメ。自分で見つけるしかない」。フリーで日本語通訳を請け負っているが、「約束した時間以上に稼働を求められることが多く、割に合わない」とため息をつく。現在は日本のIT企業やマレーシアのコールセンターで月給25万円程度の就職先を探すなど、海外にも目を向けているという。
同大キャリアセンターの担当者は「本学の学生でもコネなしで新卒入社の場合、ジャカルタで最低賃金+α程度の給料しかもらえないのが実情だ」と新卒学生を取り巻く状況の厳しさを吐露する。
広がる不公平感
インドネシアの企業では即戦力を求めて新卒でも経験者を優先する傾向が強く、「未経験者歓迎」と言いつつ実際にはインターン経験や職歴のある応募者が有利になるケースが少なくない。新卒向けエントリーレベル職ですら「関連分野で1〜2年の経験必須」といった求人が散見され、「経験がないと仕事に就けず、仕事が無いと経験が積めない」という窮状に直面する若者も多い。
こうした中、ジャカルタ市内のコンサルタント会社で無給のインターンをする私立大学3年生のアリサさん(同、21)は既に3社でインターン経験を積んでいるという。「父が金融監督庁の幹部で、将来に有利になるようにインターンするように勧めてくれた。無給でも生活費は親が出してくれるから安心」。
アリサさんのように「経験を買う」ことができる層はインターンを通して、実際の企業で求められる振る舞いやスキルを具体的に学び、面接でアピールする材料を増やすことができる。ある日系人材派遣業の駐在員は「大学ブランド的にはイルマンくんの方が上でも、親の経済力がなければ日本でいう『学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)』ができず、アリサさんよりスタート地点に立つのが難しい。その傾向は日本よりもはるかに強い」と分析する。
やる気削ぐ悪習
採用プロセスも長期化・複雑化する傾向があり、書類→筆記→面接複数回→適性検査→健康診断と、段階を踏むうちに数カ月が経過することも珍しくない。応募から結果まで時間がかかれば、その間の生活費の負担や心理的不安も増え、内定が得られなかった場合に再挑戦しようとするエネルギーも削がれる。
こうした企業側の慎重な採用姿勢の背景には、人材の定着率が低かった時代の反省や限られたポジションに最適な人材を充てたい意向がある。ただ、この慣行が新卒層の就職を難しくしている面は否めない。政府も近年、一部国営企業に対し、経験不問枠の設置など採用要件緩和を促すなど、新卒層の積極採用を呼びかけている。
今年2月のインドネシア中央統計庁(BPS)の統計によると、全体の失業率(TPT)が4.76%まで低下した一方、15~24歳層では約17%に達すると推計されている(季節調整値)。失業者に占める大卒者の割合も上昇傾向にある。10年前は全失業の5~6%に過ぎなかった大卒失業者が、昨年時点で11・3%に達した。この割合は10年でほぼ倍増している。
将来の国力を左右
インドネシアでは人口ボーナス期が続いているが、本来国の成長エンジンとなりうる新卒層を失業や不本意就労のまま放置すれば経済全体の生産性が失われる。今年10月から政府が導入した有給インターンはこうした問題への対策だが、大学卒業という社会への入口に立った若者たちが力強く第一歩を踏み出せるよう、今こそ構造的課題の解決に向けた官民の具体的な行動が求められている。(終)
