インドネシアとラオスは、ともに中国の支援を受けて高速鉄道を建設した。しかし、駅名の表記など駅舎の構造から、両国の外交姿勢の差がくっきりと現れている。

中国色排除の尼国
インドネシアの高速鉄道「ウーシュ」の西ジャワ州カラワン駅では、駅名がローマ字の「Karawang」のみであり、中国語表記は存在しない。駅舎デザインは飲食店などが若干中国ふうの店舗がある以外、中国食は全くない。指示標記にしてもインドネシア語と英語に統一され、漢字は一切使用されていない。
さらに車内で流れるウーシュ計画の紹介映像には、中国人は国家元首である習近平国家主席のみだ。それも、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)前大統領と記念式典に出席した際の数秒程度。映像を通じて「出資比率などに関係なくこのプロジェクトは中国主導ではなく、インドネシアのもの」という物語構築が意図されている。ウーシュについては、他の駅も全て同様の状態になっている。
ラオスは漢字を前面に

ラオスの高速鉄道「中老鉄路」は対極的だ。ビエンチャン駅では、駅正面に「万象」の中国語標記が大きく掲げられており、駅舎内の標記は漢字表記の併記が徹底されている。「中国の延長としての鉄道」という印象を強く与える。
この2つの高速鉄道はともに中国側が過半を出資している。にもかかわらず、この姿勢の違いは対中国に対する姿勢と外交力のよるものだろう。大陸で中国の影響力が強いラオスは中国式に従わざるを得ない。一方で、島国で2億8000万人の人口を抱えるインドネシアは大国であり、一定中国に対する影響力を排除できる。
インドネシアについては伝統的な外交方針である「独立外交」の姿勢は中国の高速鉄道だけにとどまらない。日本の円借款でジャカルタに建設されたMRTについても日本の国旗などは駅舎に全くみられない。国際協力機構(JICA)の関係者は「インドネシアは建設が終わるまでは日の丸を掲げてくれるが、完成するとすぐに取り払う」と指摘し、「MRTが中国の援助で建設されたと勘違いするインドネシア人もいる」と嘆く。
高速鉄道に関わらず、巨大なインフラは単なる交通機関にとどまらない政治的意味を持つ。これは、日本がインドネシアとの向き合い方を考える上で重要な示唆を提供している。
