国営ガルーダ航空、ボーイング機大量購入
通商交渉の材料に
通商交渉の材料に
インドネシアの国営ガルーダ・インドネシア航空が米ボーイング社製旅客機を50機以上購入する計画を打ち出した。この背景には今年7月に妥結した米国との通商交渉がある。ガルーダは近年、経営不振が続いており、この大量購入が業績回復に寄与するか、さらなる重荷となるか、注目が集まっている。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文)

高関税回避図る
米トランプ政権は今年4月、インドネシアの昨年の対米貿易黒字が約179億ドルに上ったことを指摘し、インドネシア産品に32%もの高関税を課すと表明した。インドネシア政府は関税発動を回避すべく、米国からの輸入大幅拡大を提案した。
具体策として、原油や液化天然ガス(LNG)などエネルギー資源の購入、食糧・農産品の輸入拡大、そしてガルーダによる米ボーイング社製旅客機の大量調達を約束。米側は関税率を当初案の32%から19%へ引き下げることで合意した。
米側はボーイング機の購入を特に重視したとみられ、7月に米国がインドネシア産品に課す関税率を19%に抑える共同声明を発表した際、セットでボーイング機50機の購入が公表された。
「50」内訳の理由

注目すべきは、この「50機」という数字の内訳だ。ガルーダは過去に最新のボーイング737MAXを50機発注したが18年10月、インドネシア民間航空大手ライオンエアの同型機墜落事故が起こり、安全性への不安から契約解除を申し入れていた。
ガルーダは経営悪化も理由にこれらの機材を受領しない方針を示し、事実上、棚上げとなっていたが、今回の交渉では、この契約枠を含めてボーイング機購入計画を復活させ、政治決着に利用したとみられる。
インドネシア側は今回の交渉で、この棚上げ分をさらに上積みする方針で交渉を進めた。当初は50機規模と報じられていたボーイング機調達計画について、ガルーダのワミルダン・ツァニ・パンジャイタンCEOは今年7月上旬、「50~75機を購入交渉中」と発言。その直後、エリック・トヒル国営企業相(当時)は「旧契約は失効したが、新たに79機で合意した」と述べ、最終的な発注予定が79機に拡大したことを明かしている。これには小型の737MAXだけではなく、中大型のB777やB787シリーズも候補に含まれるとみられている。
本格導入に時間も

プラボウォ・スビアント大統領は「ガルーダを成長させるには新しい航空機が必要だ」として今回の調達を正当化し、ボーイング機の安全性にも問題はないとの認識を示して購入決定を後押しした。こうした政府挙げての動きにより、機材購入は対米交渉の「切り札」と位置づけられ、最終的に関税問題は政治的妥協点に達した。
大量購入が決まったボーイング機だが、本格導入には時間がかかりそうだ。新しい機材の引き渡しは早くても来年以降で、本格導入は30年代にずれ込む見通しとなっている。機材更新の効果が業績に表れるまでタイムラグが生じることは避けられない。
経営不振に苦しむ航空会社を立て直す際は、路線・機材の削減とコストカットを通じて「身の丈に合ったスケール」 に立ち戻るのが定石だ。ある航空アナリストの一人は「ガルーダの新方針はこれと完全に逆を行く。収益難の原因特定をスキップし、いたずらに路線や便数を拡大しても状況が悪化するだけではないか」と指摘する。
次回は、「不死鳥」ガルーダをむしばむ赤字構造と経営再建の試みについて詳しく掘り下げる。(続)
