長者番付にデータセンター創業者が登場
コロナ禍以降急成長
2億8千万人の世界4位の人口を抱えるインドネシアでは、データセンター産業が急成長している。コロナ禍以降、買い物から仕事まで生活のオンライン化が進み、国内のデータ流通量は爆発的に増加。急増する需要を追い風に、デジタルインフラへの投資が活発化している。主要企業の動きや政府の後押しも相まって、データセンターは今や新たなビジネス長者を生むフロンティアとなっている。
(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文)
国内最大手創業者3人が富豪に

米フォーブス誌が発表した今年8月24日時点でのインドネシア国内の長者番付トップ10には、1位の石炭事業で財を成したロー・トゥック・ウォン氏や、国内タバコ製造大手のジャルムとバンク・セントラル・アジア(BCA)銀行のオーナー、ブディ・ハルトノ、マイケル・ハルトノ兄弟などこれまでの常連の中に、最近ランクインし始めた2人の顔がある。5位のオットー・トト・スギリ氏と、6位のマリナ・ブディマン氏、9位のハン・アルミン・ハナフィア氏だ。この3人は国内データセンター運営最大手DCIインドネシアの共同創業者だ。
スギリ氏の推定資産は約150億ドル、ブディマン氏は約110億ドル、ハン氏は約71億ドルで、インドネシアでも指折りの富豪となっている。わずか数年前までは無名だったIT技術者が、今や伝統的財閥オーナーに並ぶ存在感を示しており、デジタルインフラ分野の躍進ぶりを象徴している。
インドネシア国内のインターネット利用者は2億人を超えるとされ、コロナ禍をきっかけに買い物や教育、日々の仕事がオンラインへ移行し、データ通信量は増え続けている。動画ストリーミングやリモート会議、オンラインゲームなど身近なサービスの裏側でデータセンターがフル稼働し、現代の「情報の発電所」として社会を支えている。
11年創業、急ピッチで成長

同社は11年の創業以来、ジャカルタ近郊を中心にデータセンターを拡大。創業拠点チビトゥンの「H1キャンパス」では5つの施設が稼働し、今年6月には36メガワット(MW)規模の新棟「JK6」を開設した。データセンター単一施設としては国内最大級で、総稼働容量は約119MWに達した。
ジャカルタ以外の都市にも進出を始めており、西ジャワ州カラワンで「H2キャンパス」(総面積86ヘクタール)を開発中。すでに27MWを稼働させ、最終的に600MW規模まで拡張する計画だ。敷地内に太陽光発電を設けるなど、再生可能エネルギーを活用した「グリーンデータセンター」化にも踏み出している。
顧客はアリババクラウド、アマゾン、グーグルなど世界的IT企業を中心に、通信事業者40社、金融機関120社超と幅広い。12年から米データセンター大手エクイニクスと提携し、国際ネットワーク接続を強化。さらにインドネシアの財閥サリム・グループと共同で都市型データセンターを開発するなど、地場財閥との連携も深めている。
外資勢も続々投資
米国・中国・シンガポールなど外資勢の進出も相次いでいる。
アマゾンは21年、ジャカルタにデータセンターが集まる地域「クラウドリージョン」を開設し、15年間で50億ドル超を投資する計画。グーグルも20年に同地で地域拠点を整備、マイクロソフトも25年に「インドネシア中部リージョン」を稼働させる。
データセンター専業では、米エクイニクスが現地財閥アストラと合弁を組み、都心部に8
階建て施設「JK1」を建設した。投資額は約7400万ドル。米デジタル・リアルティも現地通信系ブルサマグループと折半出資で合弁を設立し、最大32MW規模の施設を取得・運営している。
シンガポール系のプリンストン・デジタル・グループ(PDG)は23年、首都圏チカランで22MWの新施設を開設。国内6拠点に加え、バタム島で96MWの新キャンパスを建設中だ。
日本のNTTは既に15MW級キャンパスを稼働させ、さらなる拡張に着手。香港系Bdxもインドネシアの通信大手インドサットと合弁を組み、70MW規模の人工知能(AI)対応キャンパスを稼働させた。最終的には500MW超への拡大を計画する。
政府もデジタルインフラ整備推進

政府もデジタルインフラ整備を国家戦略と位置づけ、通信網やデータセンターを拡充する計画を打ち出している。ジャワ島をはじめとして全国を光ファイバー網で結ぶ「パラパ・リング計画」など巨大プロジェクトも進行中で、地方部でのネット接続環境向上させるとともに、各地にデータセンターを分散させる計画も進めている。
こうした官民の動きにより、インドネシアのデータセンター市場は東南アジアの中でも際立った成長を見せている。専門家は「インドネシアは東南アジア有数のデータセンター拠点となりつつあり、今後も2桁成長が続く」と予測する。
下編では、シンガポールのデータセンター建設規制が引き起こした、マレーシアのジョホール州、インドネシアのバタム島を股にかけた「成長トライアングル」の現状を追う。(続)
