連載特集記事 データセンター急成長(下)

2025-10-28 05:08

バタム島、三角経済圏で相互補完
シンガポール、マレーシアと協調

 シンガポールの国内建設規制強化をきっかけに、データセンターを巡る投資マネーは隣国のインドネシアとマレーシアに向かっている。3カ国の各地では海底ケーブル網を整備してシンガポールと直結し、インドネシア政府は特区制度を軸に越境データ戦略を推進するなど、地域ぐるみで新たな動きが広がっている。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文)

バタム島内のノンサ・デジタルパークで建設が進むデータセンター=アンタラ通信撮影

省エネ規制で隣国に

 東南アジア随一のデータハブとして知られるシンガポールは、2019年に深刻化した電力不足を背景にデータセンターの新規建設を一時停止した 。国土面積に限りのあるシンガポールでは、高密度に集積したサーバー施設が国家電力消費を圧迫するため、持続可能性の観点から一旦ブレーキをかけた形だ。22年に一部規制が緩和されたものの、厳しい省エネ基準の下で許可数が絞られる状況が続いている。行き場を失ったデータセンター需要が隣国のインドネシアへ波及することになった。


 インドネシアのリアウ諸島州バタム島は有力な新興ハブとして脚光を浴びている。バタム島はシンガポールから南へわずか20kmの位置にあり、フェリーで約50分という近さだ 。島内には「ノンサ・デジタルパーク(NDP)」と呼ばれるハイテク特区が整備され、21年にインドネシア政府がデジタル経済分野の特別経済区(SEZ)に指定した 。これにより輸入関税ゼロ▽付加価値税免除▽法人税減免などの優遇策が適用され、外国企業がデータセンターを建設しやすい環境が整っている。

島をハブ化し投資誘致

SINAR PRIMERA 社が運営するバタム島の Golden Digital Gateway データセンター=同社公式サイトより

バタムの強みは、その通信インフラの優秀さにある。島からシンガポールへは海底光ケーブルが幾重にも敷設されており、約10本の国際海底ケーブルがシンガポールに直結している。データ伝送の遅延はわずか2ミリ秒未満と、シンガポール国内のデータセンターとほぼ変わらない応答速度が実現可能だ。このため、「実質的にシンガポールの延長」としてバタムを活用する動きが広まりつつある。


 シンガポール資本の通信大手シングテルとインドネシア国営通信テルコムは、シンガポールーバタム間の新たな直結海底ケーブル網構築に乗り出し、データセンター間の大容量通信需要に応える計画だ 。


 香港系Gawキャピタルとインドネシア企業が組んだ合弁事業は、今年2月にNDP初の商用データセンター施設「ゴールデン・デジタル・ゲートウェイ」を完成させた 。建設開始からわずか9カ月という異例のスピード開業で、第一期分だけで5.2メガワット(MW)、将来的には最大25MWの容量を備える計画だという 。現在、NDPにはこの施設を皮切りに複数の事業者が進出を表明しており、島全体が巨大データセンター団地へと変貌しつつある。


 インドネシア政府はバタム島を全国最多の4つの特区が設置された国家戦略のモデルケースと位置づけ、さらなる投資誘致を加速させている。バタム経営庁は、年間投資額を25年の46.3兆ルピアから29年には78.5兆ルピアへ倍増させることを目標としている。

飛躍目指す「三角関係」

バタム島からは高速フェリーで対岸のシンガポール・ジョホールバルにアクセスできる=Shutterstock

 シンガポール、マレーシアのジョホール州、インドネシアのバタム島の3地域は、「SIJORI(シジョリ)成長トライアングル」と呼ばれる経済圏構想で、古くから結びつきがあった。製造業ではシンガポールの資本・技術と、ジョホールの土地・労働力、バタムの特区制度を組み合わせた分業が進んできた。今、その図式がデジタルインフラにおいて再現されつつある。シンガポールが培ってきたインフラと需要を、周辺の広大な土地と政策優遇策が受け止める動きだ。

 ある日系商社幹部は「東南アジアのデータ需要は今後も飛躍的に伸びる。シンガポールを中心に周辺国が補完し合う形で、地域全体のデータセンター拡張が進むだろう」と指摘する 。

 国境をまたぐデータセンター投資の潮流は、国際協調と競争の両面で新たな段階に入った。「国境なきデータ時代」に対応すべく、各国・各地域のしたたかな戦略が試されている。(終)