教えて!ゼンさん② 続・2025年10月インドネシア外資規制改正

2025-10-23 05:16

外国資本会社(PMA)が複数事業を展開するときの払込資本金は?

2025年10月の外資規制改正で、外国資本会社の最低払込資本金が100億→25億ルピアに緩和。手続きも自己宣誓で簡素化され、中小企業も進出しやすくなった。改正の内容を対話形式で分かりやすく解説する。(①はこちら


BKPMの公式WEBサイトには、足下の対内投資実績を示すインフォグラフィックが並ぶ
ギマナくん:ゼンさん、前回教えてもらった外資規制の緩和について、追加で聞きたいことがあるんだ。

ゼンさん:おっ、熱心だね。どんな質問かな?

ギマナくん:もし会社がいくつかの事業を同時にやりたい場合、事業ごとに資本金を分けて用意しなきゃいけないの?以前は、外資企業(PMA)は事業分類コード(KBLI)ごとに 最低1000億ルピア の払込資本が必要だと聞いたけど、今回の規制緩和でどう変わったの?

ゼンさん:いい質問だね。今回のBKPM規則第5号(2025年)では、最低払込資本は「会社単位」で25億ルピア(約2200万円)と定められたんだ。つまり、一つの会社が複数のKBLI(事業)を持っていても、合計で25億ルピア以上の払込資本があれば条件を満たす。事業ごとに分けて資本を積む必要はないよ。

ギマナくん:なるほど!でも、10億ルピアとか100億ルピアといった「投資総額」の基準はもうなくなったの?

ゼンさん:いや、そこはまだ残っているんだ。今回の改正で「払込資本」は25億ルピアに下がったけど、「投資総額の最低基準(通常は1事業あたり10億ルピア超)」は依然として有効なんだ。つまり、「払込資本(キャッシュ)」と「投資総額(設備・建設・運転資金などの合計)」を分けて考える必要がある。

ギマナくん:じゃあ、その25億ルピアは会社を作ったらすぐ自由に使えるの?

ゼンさん:いや、すぐには自由に使えないんだ。この資金は実際に銀行に入金して、少なくとも12か月程度は会社の資本として保持する義務(コミットメント期間)がある。基本的に、初期運営費や重要な事業準備費など、必要最低限の用途に限定されているんだ。

ギマナくん:でも、機械や建物への投資も「資本」としてカウントできるなら、もう現金で25億ルピアを用意しなくてもいいってこと?

ゼンさん:そこは注意が必要だ。確かに機器や建設費などは「投資総額」に含められるけど、これはあくまで投資実績の一部として扱われるだけで、法的に定められた25億ルピアの現金払込義務を免除するものではない。つまり、設備投資は投資総額の要件を満たすのに役立つが、払込資本の代わりにはならないんだ。

ギマナくん:なるほど。じゃあ、たとえば飲食店を同じ県内に複数出す場合、それぞれに資本を積まなきゃダメ?

ゼンさん:良いところに気づいたね。実際には業種ごとに違いがあるんだ。例えば、飲食業(F&B)では、同一県・市内の複数店舗をまとめて1プロジェクトとして扱えるようになった。つまり、同じ県内に10店舗を出す場合でも、合計で投資総額10億ルピアを超えれば要件を満たす。ただし、建設業や卸売業など、他の分野ではルールが異なるから事前確認が必要だよ。

ギマナくん:じゃあ、クラウド事業と物流、環境モニタリングを同時にやる場合はどうなるの?

ゼンさん:その場合は「ハイブリッド投資戦略」が使える。設備やIoTセンサー、再生可能エネルギー関連装置など設備投資比率を高めることで、現金の資本負担を抑えつつ、投資総額を満たすことができる。ただし、25億ルピアの最低払込資本は依然として必要だから注意が必要だ。

ギマナくん:なるほど。じゃあ、大規模プロジェクトを段階的に進める場合、フェーズごとに会社を分けるのもあり?

ゼンさん:うん、それは良い戦略だね。「クラウド事業フェーズ」「物流フェーズ」「環境インフラフェーズ」みたいに、各フェーズごとに別のPMA子会社を設立して運営することで、資本構成やリスクを最適化できる。制度が明確になった今、こうしたモジュール構造はより現実的になっているよ。

ギマナくん:地方政府との連携にも有効?

ゼンさん:もちろん。地方自治体や州政府と協力すれば、環境技術や再エネ、スマート物流などのテーマで補助金・優遇措置・地元支援を受けられる可能性がある。今回の緩和内容が明文化されたことで、「国の制度としてこういう優遇があります」と交渉しやすくなったんだ。

ギマナくん:じゃあ、すでにあるローカル会社を外資企業に変更することもできるの?

ゼンさん:できるよ。既存の内資PTをPMAに転換するには、資本金を引き上げて、最低25億ルピアを払い込み済みにする必要がある。たとえば、総資本金を100億ルピアに増やして、そのうち25億ルピアを払い込めば条件を満たせる。ただし、手続きとしてはBKPMが管轄しているオンライン・サブミッション・システム(OSS)での変更届、定款改定、公証、税務関連の対応も必要だね。

ギマナくん:じゃあ、外資になったら自動的にPKP(付加価値税課税事業者)になるの?

ゼンさん:違うんだ。今回はPMAになったからといって自動的にPKPになるわけではない。PKP登録(VAT課税者登録)は売上高が一定の閾値を超えた場合、または会社が自発的に登録を希望した場合に行われる。つまり、外資化=自動的なVAT義務ではないということだ。

ギマナくん:昔は資本要件が厳しかったから、名義だけ現地人にした「ノミニー会社」を使う人が多かったって聞いたけど、今はどう?

ゼンさん:今回の規制緩和で、ノミニー制度に頼る必要性はかなり減った。ただし、一部の業種では依然として外資持株比率の制限があるため、完全になくなったわけではない。法的リスクを避けるためにも、正規のPMA形態で進出するのが安全だね。

ギマナくん:なるほど、外資での進出がずっとやりやすくなったんだね。

ゼンさん:その通り。要は、「払込資本」と「投資総額」をきちんと区別して理解すれば、正しい形で柔軟に進出できる時代になったんだ。

ギマナくん:ありがとう、ゼンさん! これで安心して準備できるよ。

ゼンさん:頑張ってね、ギマナくん。インドネシアでの成功を応援しているよ。

まとめ(ポイントと注意点)

投資調整庁(BKPM)副長官のトドトゥア・パサリブ氏(10月2日、アンタラ通信撮影)

•複数事業:

事業ごとに資本分割は不要。会社合計で払込資本25億Rp以上で足りる。


•払込資本:

現金払込が必要。銀行入金し約12か月は資本として保持する前提。自由な流用は不可。


•投資総額:

設備・建設・運転資金等を含め1事業あたり原則10億Rp超の基準は維持。設備投資は投資総額には算入可能だが払込資本の代替にはならない。


•F&B例:

同一県・市内の複数店舗は1プロジェクト扱い可。合計で投資総額10億Rp超なら要件充足。業種により扱いは異なるため建設・卸売等は個別確認が必要。


•フェーズ分割:

大規模案件は「クラウド/物流/環境インフラ」等でPMA子会社を段階設立し、資本配分とリスク管理を最適化できる。


•ハイブリッド投資:

IoTや発電設備等の設備比率を高め、投資総額要件を満たしつつ初期キャッシュ負担を相対的に抑制。ただし払込資本25億Rpは必須。


•地方連携:

自治体・州政府と協力すれば補助金・優遇・支援の獲得交渉がしやすい。


•既存ローカルPTのPMA転換:

資本金引上げ+25億Rp払込が必要。OSS届出、定款改定、公証、税務対応を伴う。


•PKP登録:

外資化と自動連動せず。売上閾値到達または任意申請で登録。


•ノミニー:

必要性は低下。ただし一部業種の外資持株制限は残存し、法的リスク回避のため正規PMAが安全。


本コーナーの水先案内人はこんな人

イーザ・ゼンジア・シアニカ
Zenzia Sianica Ihza

日系企業向けサービスに特化した総合コンサルティング会社、PT Ihza Integrated Consulting (IIC) 代表。

法律家としての経験も豊富で、多くの日系企業の顧問弁護士を務める。インドネシアに4人しか存在しない、日尼公認通訳士の資格を保有するインドネシア人でもある。1986年インドネシア生まれ、茨城県つくば市育ち。

IICのWEBサイトはこちら:https://ihzaconsulting.com/jp/