外資系給油所で品切れ続出
国営石油品質不正で乗り換え増
国営石油品質不正で乗り換え増
インドネシアでは8月下旬以降、英シェルなど外資系の給油所でガソリンが品切れになる事態が発生した。国営石油プルタミナの相次ぐ品質不正により、多くの消費者が外資系に流れ在庫が不足したためだ。外資系企業は新たに在庫を仕入れようとするが、政府が燃料輸入を一元管理していることが障壁となり、安定調達には不安が残る状況が続いている。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文)

低オクタン価ガソリンをプレミアムガソリンとして偽装販売
「外資系の給油所が干上がるなんて初めてだ。ちょっと前まで金持ちだけしか使ってなくて閑古鳥が鳴いてたのに」―。ジャカルタ市内に済む30代男性は近所のシェルの給油所で燃料タンクが空になり、給油を断念する車列を見てこう驚きを隠さない。シェルなど外資系給油所では8月下旬以降、在庫不足を告げる張り紙とともに営業時間を短縮する措置が取られており、店員が、ガソリンがないため、軽食や飲み物を店頭で売る風景も見られた。
なぜこれほど外資系給油所で品不足が相次いだのか。きっかけは国営石油プルタミナの品質不正問題だ。
一つは2024年に発覚した小売段階での不正で、いくつかのガソリンスタンドが補助金付き燃料「Pertalite(RON90)」に着色剤を混ぜ、高オクタンの「Pertamax(RON92)」と偽って販売していた。
さらに、今年2月にプルタミナ子会社の社長を含む7人が2018~2023年にかけて5年間にわたり、輸入した低オクタンガソリン(RON88相当の Premium やRON90)を貯蔵タンクで混合し、RON92(Pertamax)として販売していたことも発覚。プルタミナの公式SNSアカウントには「粗悪品をつかまされた」などの批判コメントが殺到した。
安価なガソリンを高級な燃料として偽装販売して不当に利益を得るこれらの犯罪が国営石油プルタミナで相次いだことで消費者の間では同社の燃料について「Opolosan(混ぜ物、偽物)」という批判が高まった。政府とプルタミナは「品質に問題はない」と火消しに走ったが、消費者の不信感は高まる一方で、「少し高額でも品質が信頼できる外資系から買いたい」というニーズが高まっていった。
先の30代男性は「仮に偽物の Pertamax を車に入れて故障したら多額の修理費用がかかる。インドネシア人は巨額汚職には通常自分には関係ないこととしてやり過ごすが、今回は生活に密着したガソリン。政府とプルタミナに対する批判が高まったのは当然だ」と怒りを隠さない。
輸入一元体制に対する民間事業者の不満
インドネシアでは2004年に燃料小売市場が自由化されたものの、補助金付き燃料はプルタミナ系でしか供給されておらず、民間のスタンドは基本的に高オクタンの非補助金燃料のみを取り扱ってきた。このため、市場競争は限定的で、政府は毎年各社に対し輸入販売量の上限(輸入割当)を設定し需給を管理してきた。
例えば、2024年時点で、シェルやBP-AKRなど民間事業者には前年販売量を基準とした100%相当程度の輸入枠が与えられ、需要増加を見越して2025年には10%増の「110%まで輸入可」という枠拡大が認められていた。
ただ、今年の需要急増はその程度の増枠では吸収できず、民間各社は6月時点で追加の輸入枠の申請をしたが、政府はそれを認めず、8月下旬に在庫不足が深刻化していった。
事態への対応を迫られたバフリル・ラハダリア・エネルギー鉱物資源相は9月19日に「不足分はプルタミナを通じて輸入させる」との方針を打ち出した。これにより、ガソリンの確保自体は可能となったものの、各社とも品質に自社基準を求めており、その点で情報開示が曖昧なプルタミナとの協議が一時難航した。結果として、プルタミナが添加剤を混ぜていないベース燃料を民間各社に販売・供給し、品質検査には双方が立ち会うという妥協策で落ち着いた。
政府は追加供給により、早急に事態が正常化に向かうとしており、今回の教訓から翌2026年分の輸入枠は需要に見合うよう増加させる検討に入ったが、民間各社の中には、「供給問題が長引けば拡張計画を見直さざるを得ない」と経営計画の変更を示唆する声が出るなど、不満がくすぶっている。
競争委が指摘する「市場の歪み」
KPPUはこのままでは民間事業者が市場から締め出され、ひいては外国企業の投資意欲を損ないかねないと警鐘を鳴らした。同委は政府に対し、安定供給と競争促進の両立へ政策見直しを求めている。
ある日系商社駐在員は「インドネシアでの給油所ビジネスは、非補助燃料の販売で利益を出すのが基本。政府は民間各社の輸入枠拡大を認めるとますます消費者がそちらに流れ、プルタミナの収益が悪化すると考えた」と分析する。
消費者からの信頼回復が急がれる
政府は元売りをプルタミナに絞る方針を「公共財の安定供給は国家主導が正当」とする立場から正当化しているが、そうであれば不正を無くし、品質を国際基準で通用する水準まで高めることが最低限の前提となる。
もし、プルタミナやその商品への信頼を回復できないまま、同社1社しか選択肢を提示しないのなら、消費者の不信は高まる一方だろう。二輪・四輪ともに車両故障が相次ぎ、事故にでもつながれば、深刻な政府批判につながりかねない。政府と同社には早急な信頼回復への取り組みが求められる。
プルタミナについては、今回のような輸入一元化に固執せねばならない根本要因としてインドネシア国内での生産能力の不足も指摘されている。次回はその実態を追う。(続)
