交通インフラ 国産電車の運行スタートー日本製部品を多数採用

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 国営鉄道車両製造会社(INKA)製の国産新型車両、CLI—225型(12両編成)が16日、営業運転を開始した。これまで日本からの中古車両に依存してきたインドネシアにとって、悲願だった国産車両の開発が実現した。特筆すべきは、この車両には日本製の部品が多く使われており、「日イ合作」とも言える点だ。今後も両国の協力関係強化が期待される。
(アジアン鉄道ライター 高木聡、写真も)

INKA製新型車両の上り一番列車が16日、マンガライ駅に到着

■静かなデビュー

 運行初日となった16日は「足慣らし」のため、ボゴール~ジャカルタ・コタ間(約54・8キロメートル)でラッシュ時間帯を外した運行となった。午前9時半過ぎに新車両がデポック駅に入線したが、記念式典はおろか、事前告知もされていなかったため、乗客らは何も知らず、いつも通りに乗り込む静かなデビューとなった。

 上り終点のジャカルタ・コタ駅から折り返す際、途中駅から国鉄のグループ会社KCIとINKAの両社長、幹部らが乗り込み、乗客らに記念品を配布する場面も見られた。運行本数、運行区間を順次拡大し、来年半ばまでに全16本が導入される予定だ。

■まるで日本の通勤電車

新型車両の車内。日本の通勤電車のような雰囲気だ

 日本製の中古車両に大半を占められていた首都圏のコミューターライン各線だが、政府が23年に中古の輸入停止を決定。新型車両への切り替えが進み、中国の鉄道車両メーカー、中国中車製の営業投入に続いて、今回のINKA製車両が導入された。

 中国中車製車両は、中国国内の最新の地下鉄をベースにして製造されており、通勤型車両でありながら、静寂性、デザイン性も高く、内装が豪華なイメージを受ける。一方で、今回のINKA製車両は、良くも悪くも質素な印象だ。逆に言えば、日本の通勤型車両そっくりの平面的な前面デザイン、四角い車体、内装も白を基調にしたシンプルなものにまとめられている。走行音も相まって、目を閉じれば、まるで日本の電車に乗っているような感覚になる。

■政府は国産化を推進

 日系メーカーや商社の後押しもあり、1979年に創業したINKAは、これまで国内外問わず、多数の貨車、客車を生産している。しかし、電車に関しては、幾つかの実績はあるものの、量産化できる「決定版」が無く、市場を中古車両に明け渡していた。政府としては国内産業の育成という意味合いもあり、国産車両の開発を急いだ。

 開発は当初、スイスのシュタッドラー社とINKAの合弁で進む予定だったが、日本仕様の扱いに慣れているKCIの猛反発により、再設計された経緯がある。そのため、多数の日本製品が採用された。制御装置やパンタグラフなど、電機品一式(東洋電機製造)、ブレーキ及びドア装置(ナブテスコ)、連結器(日本製鋼所)、車両間のジャンパ線(ユタカ製作所)といった主要部品が日本から輸出されている。

 一方で、INKAはこれら装置や部品を組み立てているに過ぎないという批判もあり、政府はさらなる国産化比率の引き上げを目指している。東洋電機製造はINKAの要請に応えるかたちで、技術移転契約を締結し、現地生産も支援した。16本中、11本目以降に関して、コアとなるパワーユニットや半導体装置は日本から輸出するほか、装置の外箱や細かい部材などは国産品に切り替え、技術指導した。8割ほどの部材がインドネシアで調達されたという。

■日系企業が貢献

マンガライ駅で16日、新型車両の出発を見送るINKA社長ら

 在インドネシアの日系企業も国産化率の向上に貢献している。主に自動車向けのゴム製品や合成樹脂製品を中心に約30年にわたり、現地で製造、販売するフコク東海ゴムインドネシアは、台車部品である「軸箱支持ゴム」を自社工場で製造し、INKAに納入した。同社の原一郎代表取締役は「わずか半年という短期間で開発から量産まで実現したことは当社の誇り。今後も現地に根を張る日本企業として貢献したい」と胸を張る。

 インドネシアと日本・アジア各国との貿易取引を展開する総合商社の東工コーセンインドネシアは、15年よりINKAによる鉄道用空調機(冷房装置)開発を支援し、今回の新型車両に空調機用コンプレッサーを納入。同社の杉山誠社長は「インフラプロジェクトの成功を後押しできるよう、また現地のモノ作りに貢献できるよう社員一同励みたい」と話す。

 プラボウォ・スビアント大統領はこのほど、追加でさらに30本の通勤電車の調達計画を明らかにした。どのメーカーの車両を採用するかはまだ決まっていないが、品質、価格、納期だけで見れば、中国中車に軍配が上がるのが現状だ。ただ、中国メーカーは現地産業の育成に対する意識が乏しい。

 INKA製新型車両は晴れてデビューを果たしたが、今日に至るまで、すべて滞りなく進んだかといえばうそになる。システムインテグレート(統合)や、溶接技術など、さらなるブラッシュアップが必要だ。日系企業が長年にわたり人材と技術を育成支援してきた「日イ友好」の成果を絶やしてはならない。インドネシアの現地産業育成のためにも、INKAと日系企業の連携が今後とも不可欠だ。