交通インフラ 日野「RK8」引退ー中国製EVの台頭鮮明に
ジャカルタ特別州傘下で公共交通運営を担うトランスジャカルタ(TJ)で長年親しまれてきた日野製バス「RK8」が今年1月、ひっそりと引退した。ジャカルタの都市交通を支えてきた日系大型バスが第一線から退き、その後継として中国製電気自動車(EV)バスが急速に存在感を高めているという構造変化の表れといえる。
(アジアン鉄道ライター 高木聡、写真も)

■急速に入れ替え進む
RK8は車体全体が水色で、やや丸みを帯びた姿が特徴だ。2024年から徐々に数を減らし、26年初めの時点で約30台が残るのみとなっていた。1月31日の最終日は12B系統(スネン~プルイット)に集中投入され、その役目を終えた。
背景にあるのは、ジャカルタ特別州による厳しい車両更新方針だ。州はTJ車両の運行上限を10年と定めており、国が定める25年を大きく下回る。このため車両の置き換えは急ピッチで進む。プラモノ・アヌン同州知事も、29年までに1万台のEVバスを導入する方針を表明しており、今後もEV化の流れは一段と加速する見通しだ。
■日野RK8の意義
もっとも、RK8は単なる旧式車両ではない。インドネシアの大型バス市場で圧倒的なシェアを誇るシャーシ(車軸やエンジンを備えたバスの土台部分)として知られ、価格の安さ、スペアパーツの流通の広さ、構造の単純さによる修理のしやすさから、中・長距離バスを中心に全国で広く採用されてきた。アナログ機器が多く、故障しても現場で対処しやすいことも支持を集めた理由だ。
TJで活躍したRK8は、国内5つの架装メーカーが分業して車体を組み立てたもので、14年から15年にかけて、運輸省を通じて国営PPD(ジャカルタ公共旅客輸送会社)に600台が供与された。
■路線バス復権を支えた

当時のジャカルタでは、10年前後に導入した韓国製や中国製のバスで不具合やトラブルが相次ぎ、TJは深刻な車両不足に陥っていた。国家予算を投じて投入されたRK8の600台には、単なる補充ではなく、運行本数を大幅に増やし、都市交通の信頼を立て直す役割が期待されていた。
一方で、RK8はTJにおける日系大型車大量導入の「最後の世代」でもあった。
TJは14年に従来の公共企業体から株式会社に改められたことで運営の健全化が実現。以降、TJは年間数百台規模での自社調達が実現するようになった。高価格帯のスカニアやボルボ製のオートマチック車が多数導入された点も特筆される。25年時点での運行台数は約5000台に及ぶ。
さらに23年以降、TJはEVバスの本格導入へとかじを切った。RK8はまさにこの流れの中で置き換えられ、徐々に姿を消していった。
現在のTJには、BYD(比亜迪)、Zontong(中通客車)、Skywell(開沃汽車)、Golden Dragon(金龍客車)など中国製EVバスが並び、まるで中国EV商用車の見本市のような様相を呈している。国内架装メーカーもこれに追随し、車体の国産化や最終組み立てを進めている。
■伸びる中国勢
中国メーカーは、かつては不具合の多さから敬遠された時期もあったが、EVバスの完成度は大きく向上し、世界市場でも存在感を強めている。
もともとEVと路線バスは相性が良い。決められたルートを走行するため、車庫に充電設備を置けば運用しやすく、停車と発進を繰り返すバスでは高い加速性能を持つモーター駆動や、変速機を必要としない構造も利点となる。中国メーカーは自国の巨大市場を背景に、この分野で量産効果と技術蓄積を一気に進めてきた。
TJは一国への依存を避けるため、複数国からの車両調達も検討している。しかし、欧州車はアジア規格への仕様変更の遅れや、生産規模の小ささによるコスト高が障害となり、導入拡大は容易ではない。これも中国勢優位の理由となっている。
■日本の巻き返しはあるか

日本は乗用車分野でもEV開発の遅れが指摘されてきたが、商用車ではそれがさらに顕著とされる。
業界関係者によれば、昨年登場した量産型EVバス「いすゞエルガEV」も、バッテリーは韓国製、走行用モーターとブレーキはドイツ製で、実質的に「車体のみ国産」に近い。継続走行時間や価格面でも先行する海外勢に対抗しにくく、6000万円台という価格水準では公的補助金なしに導入は困難だという。
もちろん、すべてのバスがすぐEVに置き換わるわけではない。航続距離や充電インフラの制約から、都市間を結ぶ中・長距離路線でEV化が急速に進む可能性は当面低い。現状ではディーゼル車の使い勝手は依然として圧倒的であり、全国規模でみればRK8のシャーシの優位性は揺らいでいない。
とはいえ、都市公共交通という最前線では、構図が確実に変わり始めている。ジャカルタでは引き続き、車両更新とEV化が並行して進み、中国メーカーの存在感はさらに高まる公算が大きい。
目下の話題として、この4月、日本で三菱ふそうと日野の経営統合がある。トヨタ自動車や独ダイムラートラックをも巻き込む大きな業界再編で、三菱ふそうと日野はアジアにおける商用車のリーディングカンパニーを目指す。生産拠点の効率化もさることながら、やはり見据えられているのは、電動化技術の確立である。中国製EVが世界の都市バス市場を席巻する中、日系メーカーの巻き返しはあるのか、注目だ。