交通インフラ 積み上がる日本製中古電車、「市民の足」が廃車で野ざらし

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 ジャカルタ首都圏(ジャボデタベック)の通勤を支えた日本の鉄道中古車両が線路から撤去後、野ざらしになっている。新型車両への置き換えに伴い、直近2年で相次いで廃車となったが、デポック車両基地を跨ぐ歩道橋近くに積み上がっている。車体には日本語の表記も残っているため、日本が廃棄物を処理しないといった批判につながる懸念もある。年明け早々、現場を訪れた。(アジアン鉄道ライター 高木聡、写真も)

デポック車両基地近くにある歩道橋のすぐそばまで迫った日本製の引退車両

■歩道橋のすぐ近くに

 ジャカルタのベッドタウンとして発展するデポック市。通勤の足として鉄道の存在は欠かせない。周囲を住宅に囲まれた中にデポック車両基地はある。ジャカルタとボゴールを結ぶ通勤線(コミューターライン)の運行の要だ。その敷地内で日本製の中古車両が2段、3段と積み上がり、歩道橋から飛び移れそうな距離にまで車体が迫る。もともと通行量の多い橋であったが、カメラを向けて様子を見守る野次馬が集まり、バイクの通行を妨げ、渋滞になるほどだった。

 これらの車両はコミューターラインで長く利用されてきたが、インドネシア政府が国産INKA製の新型車両などに入れ替えることを決定し、廃車になったものだ。直近2年でその数は約150両に及ぶ。

 廃棄車両はジャカルタから約100キロ圏内にある西ジャワ州内の駅構内か、デポック車両基地の空き地部分に運ばれた。デポックには元東京メトロを中心とした車両が割り当てられ、新たに78両が積み上げられた。

■広大な保管用地が切迫

 デポック車両基地では従来、歩道橋から遠く、人目につかない所へ順に車両が廃棄されてきた。しかし、廃棄車両が増えるにつれ用地容量が切迫し、ついに歩道橋近くにまであふれ出してきた。

 そもそも、この車両基地は、日本の円借款協力で2008年に完成した。約500両の留置能力と車両を点検する重検査機能を有する東南アジア最大規模の車両基地だ。敷地面積26ヘクタールのうち、将来的な拡張に備え、遊休地として残されている部分があり、線路から降ろされた車両はこの場所に置かれてきたが、それも限界を迎えたというわけだ。

何段にも積まれたデポック車両基地の廃棄車両は、現在も放置されたままだ

■解体コスト嫌う

 引退した車両は解体され、金属スクラップになるのが一般的だ。場所を占有するだけでなく、資産としてカウントされれば、課税の対象にもなる。     しかし、インドネシアでは、車両が解体されないままで野ざらしになり、地方の駅構内やヤードに放置され、積まれている光景をよく見かける。鉄道会社側が解体コストを嫌うためだが、廃棄車両は、放火など犯罪の温床になることもしばしばある。

 日本製の車両も同様に放置されている形だが、そもそも日本がインドネシアなど海外に中古車両を輸出する根源的な理由も解体費用の節約であるため、一方的に非難はできない。日本国内では昨今、アスベスト問題などから解体を外部の専門業者に委託する例も多く、費用が上昇している。「1両当たり数百万円のコストがかかるくらいなら、タダでも良いのでどこかに買ってもらいたいというのが本音」(大手鉄道会社関係者)。

 ただ、日本製の中古車両が長きにわたり、ジャボデタベックの「市民の足」として活躍し、通勤を快適にしたのもまた事実だ。「日本製の品質はすごい」というイメージを高めた車両が、最後は「景観を悪化させる迷惑なスクラップ」で終わるのは誠に忍びない。適切に解体すれば資源として売却・再活用できるだけに実にもったいない。

 この廃棄車両はインドネシア側の責任で処理されるべきだが、アルミやステンレスのリサイクル支援などを通じて、日本として何か手伝えることはないのだろうか。日本は少なくとも、中古車両を国際貢献や環境対策としてインドネシアに輸出した経緯もあるだけに、義務があるように思える。その義務を果たすことで、日本の鉄道輸出が「ゴミの押し付け」ではないと国際的に信用させられるのではないだろうか。

 在インドネシア日本国大使館や在インドネシア企業などの支援が強く期待される。

チカウム駅(西ジャワ州)では、廃車体が10年近く放置された状態のままになっている

■日本から約1500両譲渡

  ジャカルタ首都圏への中古車両の導入は、2000年から01年にかけて、東京都交通局から72両が国際協力機構(JICA)の無償資金協力で譲渡されたのが始まりだ。以降は、民間ベースの有償譲渡となり、東京の地下鉄、私鉄、JRなどから、20年までの間に延べ、1488両が導入された。

 鉄道車両は、走行距離や会社方針にも左右されるが、東京首都圏の通勤電車の場合、概ね30年から40年程度で引退となり、譲渡される。中古車両となると「10年持てば御の字」が一般的な考え方だ。

 近年の車両は、腐食に強いステンレスやアルミニウム製の車体が多くなっている。とはいえ、走り装置(走行装置)や、制御装置の経年劣化、特に電機品のスペアパーツの生産中止による入手困難の問題は避けることができない。日本の中古車両は東南アジアを中心とした国々に譲渡されているが、5年も持たずに使用不能に陥る例も多い。

■長持ちする日本車両

 ただ、インドネシアでは、想定年数を上回り、15年から20年という長期間にわたって活躍を続けた。メンテナンスと、消耗品のサプライを適切に行ってきたことの証左であり、これに驚く日本の鉄道関係者も多い。

 しかし、この導入された1488両が同時に活躍していた時期は存在しない。00年から10年ごろに導入されていたグループは13年以降、JR東日本から205系車両の大規模導入が実現すると、徐々に引退が進んだ。 

今までも、老朽化した中古車両を日本から届いた比較的新しい中古車両に置き換える「世代交代」が図られており、中古車両の配車は今始まった話ではない。実は、今回の約150両を含め、564両が既に廃車となったということは、あまり知られていない。

■中古車両導入は「安い」

 車体のみを活用し、機器を新品に交換するなどして、徹底的にリニューアルして継続使用するという選択肢がないわけではない。しかし、中古車両の導入コストは、輸送費を含めても1両あたり約1000万円と高額で、経年車両をリニューアルするよりも、新たに中古車両を購入した方が安く、また手っ取り早い。

 インドネシア政府が23年に中古車両の輸入停止の決断を下す際、新品車両数の抑制と、既存車両の有効活用を図るため、最大150両の既存車両のリニューアルも検討されたが、調査の結果、車体台枠や台車の劣化が判明し、コストが想定より大きいことが判明。結局、リニューアル計画は24両までに縮小し、残りは廃車となった。その後、代替として中国からの新車調達を96両、追加契約した経緯がある。

 今回の約150両の廃棄を決める上で、インドネシア側もコストとリターンを考えた妥当な経営判断を下したとは言える。