交通インフラ 投資計画一巡で減速—26年の鉄道展望国鉄計画、実現性に疑問

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「今年は仕事がないかもしれない……」。インドネシアの鉄道業界では新年早々、こんな声が上がっている。鉄道を中心とした公共交通整備はこれまで、地道ではあるが着々と進められてきた。その集大成が、昨年、国鉄(KAI)傘下の通勤鉄道、コミューターラインへの新型車両の導入だ。昨年を振り返ると、KAIの輸送力強化が目立った1年だった。しかし、そこから一転、2026年は国としての方針が見えてこないのが実情だ。(アジアン鉄道ライター 高木聡、写真も)

■計画、ひとまず終了

 日本の中古車両の牙城が切り崩されると大きなニュースになった25年、中国から132両の新型電車の導入がわずか半年で完了し、さらに国産INKA製の電車も昨年中に48両が導入された。今では、これらすべてが営業運転を開始しており、ジャカルタ~ボゴール間を中心として、朝夕の「殺人的」混雑が緩和された。

 南スマトラ州には石炭輸送用としてアメリカ製の大型機関車CC205が年内までに54両中38両が導入され、余剰となった機関車7両がジャワ島に復帰した。最終的に20両近くが南スマトラから転じ、旅客輸送に復帰する予定だ。客車はINKAで全612両の残数が引き続き生産され、機関車とともに年末の多客輸送で威力を発揮している。

 これらを合わせると、過去最大規模の年間車両調達数だ。いずれもジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権下の10年で契約されたもので、それ以外にも電化、複線化など各線区で設備の整備が大きく進み、輸送力増強が図られてきた。昨年でそれが一巡した格好だ。

■予算削減で着工困難

  過密化した都市問題、そして、大気汚染問題の抜本的解決の為に、鉄道整備は喫緊の課題であり、止めることは出来ない。運輸省は長期計画として、KAIのチカラン~カラワン間(約19・5キロ)のほか、西ジャワ州バンドンやジョグジャカルタ特別州の地区でも電化する方針を示していた。

 このほか、ジャカルタ首都圏を中心として、各地で新交通システムが計画されている。この中でも、特に西ジャワ州カラワンまでの電化は優先順序が高く、26年早々にも着工するはずであった。しかし、折からの予算削減のあおりを受け25年度予算には計上されず、26年度の予算組み込みも厳しい。

 軽量高架鉄道(LRT)ジャボデベックのボゴール延伸も、昨年8月末にスリ・ムルヤニ財務大臣(当時)が、26年度予算で約23兆4200億ルピアの政府保証書を発行すると発言したが、その後、スリ氏が更迭されたため、同プロジェクトも雲散霧消している。

 既存のLRT、都市高速鉄道(MRT)の延伸について、政府は建設費を抑えられる新交通システムを導入し、民間資本で整備を進める考えを示しているが、低コストとはいえ、数千億から数兆ルピアを要する巨大プロジェクトに企業が投資するというのは、過去の例、また、周辺各国の例を見渡しても、可能性は無いに等しい。

■国鉄が3倍延伸を計画

 KAIのボビー・ラシディン総裁は昨年末、現地メディアに対し、26年内に600キロの鉄道を開業させると発言した。戦後数十年来にわたって休止されている路線の再活性化という意味合いだが、ほぼ新線建設に匹敵する規模で、それを1年で開業させるのは予算的に実現性が乏しいと言わざるを得ない。

 さらに、同氏は29年までに総営業距離を現在の3倍に当たる1万2000キロを目指すという。ジャワ島のみならず、スマトラ、カリマンタン、スラウェシ、パプアまで含まれている。わずか10キロの路線整備すらとん挫する中、「絵に描いた餅」と関係者は冷ややかだ。

 ボビー氏といえば、西ジャワ州知事の要請に応える形で、ジャカルタ~バンドン間の在来線改良による高速化で所要時間1時間半を実現すると発言し、「既に高速鉄道『ウーシュ』が約45分を実現している中、さらに数十兆ルピアを投じるとはばかげている」と大きな批判を浴びた。

■政府は現実的計画を示せ

 前政権下では、スラウェシ島に初の鉄道(約140キロ)が開業しているが、1日の利用者は500人程度しかいない。運賃はわずか5000ルピアから1万ルピアだ。ウーシュの負債ばかりが注目されているが、こちらも無視できない問題を抱えている。

 人口密度の高いジャワ島に対し、それ以外の島々は元来、鉄道との親和性が良いとは言い切れない。貨物輸送が旺盛と言われるスマトラ島も、あくまでも石炭需要の大きい南スマトラの話であって、北スマトラ、西スマトラは完全なる赤字線区である。

 国鉄サイドからこうした現実とは乖離した計画が語られるのは、現在のプラボウォ・スビアント政権の中で現状をわかっていない「イエスマン」ばかりが増加し、どこをどう整備するべきなのか、実効性ある議論がなされていないのではないかと懸念される。       

■今年は乏しい成果に?

 国としての方向性が混迷を極める中、ジャカルタ特別州政府を中心としたMRTとLRTは着々と工事が進む。新規線区となるMRT東西線も、円借款契約が結ばれていることから、よほどのことがない限り、着工に向けた準備が継続されていくだろう。     

 ただ、業者選定も始まっていないため、26年内に果たして着工できるかは注視する必要がある。いずれにせよ、MRT南北線フェーズ2、LRTマンガライ延伸も、完成年度は来年以降のため、今年の鉄道業界は変化の乏しい1年になることが予想される。