インドネシアニュース 三菱商事関連会社が建機貸与ー被災のアチェ支援、土砂撤去で活躍
三菱商事の関連会社で建設機械レンタル事業を手がけるPT・ Berlian Amal Perkasa(BAP)はこのほど、2025年11月末に洪水被害を受けたスマトラ島のアチェ州北部に建機2台を無償貸与した。土砂などの撤去を支援するため現地を視察した同社の平田大輔社長が目にしたのは、一向に復旧が進まない惨状だった。 (ジャカルタ日報編集長 赤井俊文)

■破壊された日常
「災害発生から2カ月が経過したのに、ほぼ手付かずの状態じゃないか」――。1月22日、平田社長は建機が到着したタイミングで、自らがアチェ州北海岸部ビディ・ジャヤ県とビルン県内の村に入った際、こう感じたという。
この地域はアチェ地方の中央を走るバリサン山脈北東の低地平野に位置し、山脈から流れる河川に隣接していることが災いし、山から大量の流木と土が流れ込み、文字通り村一帯が洪水に飲み込まれた。
依然として流木や土の運び出しは進んでおらず、住人は日常生活を取り戻せていない。河川から流れ込んだ大量の水や土、流木によって家屋は床上浸水。住民の多くは農業に従事していたが、コーヒー豆・パパイヤなどの農作物は全滅した。住民によると、冷蔵庫の高さまで洪水が押し寄せ、電気も2週間前にようやく回復したという。
■足りない重機
平田社長が現場の復旧作業を目の当たりにして最も印象的だったのは、重機がまったく足りていないことだった。
現場では中型油圧ショベルや運搬用トラックが数十台が稼働しているが、災害復旧の初手である土や流木の片付けが進んでいない。住人がスコップで土の運び出しを行っているが、人力ではほとんど歯が立たず、このペースでは、あと数カ月経っても復旧が進まないことが懸念された。
■活躍するBAP建機

そんな状況だけに、無償貸与されたBAPのテレハンドラー(伸縮式のアームを備えた建機)の活躍は目を引いた。4トンの屈強なボディーが7メートルの力強いアームで次々に土砂を退けていく。テレハンドラーの活躍は住民から大いに感謝された。そのしるしとして、作業員2人が現地の事故防止の祈祷を受けたり、建機の前に集まって写真撮影が行われた。
■民間支援は日本が最初
現地窓口を担ったシャリア・クアラ大学のフマム教授は今回の支援に対し、「北スマトラコミュニティーへの貢献に心から感謝する」と述べた上で「中国も韓国もどこの国も現場に来てくれない中、日本の三菱商事、BAPが初めて国際支援に来てくれた」と涙ながらに語った。
■政府がダメなら民間で

今回の支援は昨年、三菱商事ジャカルタ駐在事務所と国際協力機構(JICA)が情報交換を行った際、北スマトラ被災地の最大の課題が「洪水による土砂の撤去」という点で認識が一致したことがきっかけだ。インドネシア政府が今回の災害を「国家災害」として認定せず、JICAや在インドネシア日本国大使館が支援に踏み切れない中、三菱商事は、同社の完全子会社で日本国内の災害復旧活動において多くの経験とノウハウを有する建機レンタルのニッケンが出資するBAPを現地に派遣することに決めた。
25年12月にテレハンドラー2台、オペレーター2人と管理者1人を1カ月、無償で貸与することでアチェの非政府組織(NGO)と合意した。
建機の海上輸送オペレーションでは、物流大手の上組インドネシアがサービスの一部を無償提供するなど、支援の主旨に賛同した民間企業同士が連携してコストを分担した。
平田社長は「東日本大震災を経験した我々日本人の感覚からすると、復旧のスピードは非常に遅い」と話す。その上で、現地で不足する建機などを補充するために「日系の建機業界全体によるオールジャパンの支援ついて可能性を模索したい」として、官民連携を含めて関係者に協力を求めていく考えを示した。
北スマトラ豪雨災害、進まぬ復旧ー死者1200人、避難者19万人超
スマトラ島北部で2025年11月下旬に発生した豪雨ではアチェ州、北スマトラ州、西スマトラ州で洪水と土砂災害が相次ぎ、復旧が長期化している。
国家防災庁(BNPB)が1月に公表した報告によると、3州合計で死者は1189人、行方不明が141人、避難者は累計19万人超に上る。住居の被害も大きく、重度の損壊を受けた住宅は約4万9300戸に及ぶという。現在は仮設住宅の建設が進んでいるが、避難住民を全員収容できるかについてはまだ時間がかかると見られている。
今回の平田BAP社長の視察では、現地での土砂と流木の運び出しが進んでおらず、住民も日常生活を取り戻せていない状況が明らかとなった。平田氏によると、水が引き、家の中の土砂は片付けられている所が多いものの、土と流木は外に放置されたままだ。これらが乾燥して粉じんとなれば、住民の健康被害にもつながりかねないという。
■「国家災害」認定されず

土砂の処理に不可欠な建機の不足については、インドネシア政府が「国家災害」認定をしていないことが大きく影響している。
国家防災庁(BNPB)は被災地全体で約52兆ルピア規模の復旧費用が必要と計算しているが、政府はこの巨額の出費を国家予算から捻出することに対し、二の足を踏んでいるという指摘もある。
しかし、被災地の惨状を考えれば支援は待ったなしの状況だ。インドネシア政府が「国家災害」認定をした上で、日本を含む諸外国に正式な支援を求めれば、「ヒト」と「モノ」の両面で十分な体制が整う希望も見えてくる。今後の政府の動向を注視したい。
■環境破壊も要因
別の論点として、平田氏が視察した地域では、山頂にあるパームオイルやコーヒーのプランテーション開発が地盤を緩ませ、地滑りを起こりやすくした一因であることも確認されている。今回の災害は乱開発による「人災」だという側面は無視できない。
環境省は先月、被災地域の環境破壊を巡り、国内の6社に対し罰金や生態系復旧費用を含む総額約4・8兆ルピアの損害賠償を求める訴訟を起こした。今後は農業など地方の開発に携わる民間企業にとって、環境保護との両立がより求められそうだ。
■オールジャパンの支援を
気象庁(BMKG)は2月にかけ、インドネシア各地で異常気象が続く可能性があるとして注意を促している。被災地域では復旧工事の遅れや二次災害につながる懸念が大きい。
今回のBAPの取り組みは民間企業として評価されるべき意欲的な一歩だが、単独の企業が担える役割には限界がある。
今後、日系建機業界全体による支援に官民が一体となって取り組む体制が構築されれば、日本とインドネシアの関係にとって大きな足跡を残せることは間違いない。
04年にアチェで起きた地震・津波被害でも日本は深く支援に携わった。当時の日本の支援については現地の人々の間で感謝の気持ちがしっかりと受け継がれている。今回も、日本はオールジャパンで支援をすべきではないか。