インドネシアニュース ルポ 詐欺拠点で日本人13人拘束ーボゴール 住民「忍者のように屋根伝い逃走」

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 西ジャワ州ボゴール県で今月初め、日本人13人が特殊詐欺に関与した疑いで現地の入管当局に拘束された。ジャカルタ日報は容疑者らが拠点としていた住宅を訪れ、周辺住民を取材。浮かび上がったのは、周囲から隔絶された異様な生活実態だった。

日本人容疑者らが滞在していた西ジャワ州ボゴールのスントゥール・シティ内の住宅=ジャカルタ日報撮影

■逃亡でプール飛び込む

 現場は、同県ババカン・マダンにある「スントゥール・シティ」内の住宅街。容疑者らはここで3軒の家を借りていた。

 まず、警備員が常駐するゲートの最奥に位置する、隣り合った3階建ての2軒を訪ねた。いずれも10人以上住めそうな大型住宅だ。ボゴールは避暑地として知られ、この住宅街でも、ジャカルタで働く中上流層が週末用のセカンドハウスとして利用するケースが少なくない。

 インターホンを鳴らし、声をかけてみたが反応はない。しばらくすると、隣家の管理人が姿を見せた。  「驚いたよ。忍者みたいに向こうの窓から抜け出して、こちらの家めがけて屋根伝いに飛び移ってきたんだ」。

 管理人によると、2日夜に入管当局が踏み込んだ際、日本人の男一人が屋根に飛び乗って逃走を図った。その際、瓦20枚が割れ、踏み台にされたアンティークの机も壊れたという。男はその後、プールに飛び込んだが、間もなく拘束された。

■周辺住民に姿を見せず

容疑者の一人は入管当局が踏み込んだ際、隣家(左)に飛び移り、屋根伝いに逃走した=同

 容疑者らの生活ぶりについて、この家に住む住民に尋ねた。

 ——暮らしぶりはどうだったのか。

 「2月初めくらいから1カ月余り住んでいたと思うが、入居当初から明らかに様子がおかしかった。ドアも窓も全部閉め切り、ほとんど出てこない。出入りは主に夜だった」。

 ——食料などの調達は。

 「週に1回、近くのスーパーまでワゴン車で買い出しに行っていたようだ。デリバリーも時々頼んでいたと思う」

 ——実際に姿を見たことは。

 「ある。30代くらいのリーダー格が3人、あとは20代の若者という感じだった。ただ、手足などにタトゥーが入っていて明らかに『ヤクザだな』と思い、怖くて近寄れなかった」。

 ——周辺住民の通報で入管が動いたとされる。

 「この辺の住民はみんな疑っていた。素性が怪しいと……。誰が通報してもおかしくない」。

 ——日本人がここで犯罪に関与していたことについては。

 「本当にショックだ。タイ人やフィリピン人の犯罪は聞いたことがあるが、日本人は初めて。日本人はお金持ちで善良な人という印象だった。若者が捕まったのは本当に気の毒だと思う」。

 ——隣の家はどうなるのか。

 「はっきりしないが、これまでは民泊仲介サイトを通じて貸し出していた。ただ、今は入管が鍵を持っているので、当面は難しいのではないか」。

■監視カメラを壊す

容疑者らは家2軒を借り、この家は4カ月契約で入居していたという=同

 容疑者らが借りていたもう一軒の住宅も訪れた。先ほどの2軒から車で約5分の場所にある、モダンな外観の大きな3階建て住宅だ。

 家で掃除をしていた女性に話を聞くと、この家の管理を任されているという。

 ——容疑者たちの様子は。

 「私は直接見たことはない。週1回掃除する契約だったが、夫が先に家の中を見て『住人は体にタトゥーがあり、(Wi―Fi通信の)ルーターも大量にあって明らかにおかしい。お前は来るな』と言った。その後、掃除の依頼もなくなって、夫も行っていない」。

 ——生活の様子は。

 「入管が拘束した後、家のオーナーから連絡を受けて初めて家に入ったが、ゴミが放置されて汚く、逃げる際に壊したのか家具も壊れていた。備え付けの監視カメラも引きちぎられていたし、最悪だ」

 ——何人が住んでたのか。

 「詳しくはわからないが、普段は先ほどの家に集まっていたのではないか」

 ——彼らはどうやってここを借りたのか。

 「大手の民泊仲介サイト。2月ごろから4カ月契約だった。男ばかり大勢で借りるのはおかしいと思い、サイトの事務局にも確認したが『問題ない』と言われた」。

 ——今後も貸し出す予定か。

 「オーナーはやりたいみたいだけど、こんなことがあってSNSにもさらされて難しいんじゃないかな」。

 閑静な住宅街で日本人による特殊詐欺グループが活動していた事実は、周辺住民に大きな衝撃を与えている。

詐欺拠点、インドネシアにも拡大か

拠点からは通信ルーターや多数の携帯電話が押収された=アンタラ通信

 今回、現場を訪れて見えてきたのは、民泊仲介サイトを悪用してジャカルタ首都圏(ジャボデタベック)の一角にあるボゴールに滞在しながら特殊詐欺を行う、容疑者らの姿だった。

 警察関係者によると、これまで特殊詐欺拠点が摘発されてきたタイやカンボジアなどと異なり、インドネシアは①日本から地理的に離れている②外国人がビザを取得する際の金銭的・時間的コストが比較的高い③町内会のような地域住民組織(RT/RW)の結び付きが強く、不審者が目立ちやすい④特殊詐欺のノウハウを持つ中国系犯罪組織の影響力が相対的に弱い⑤通信環境が必ずしも安定していない――といった理由から、大規模な摘発事例は確認されてこなかったという。 

 実際、これまでインドネシアで摘発された邦人の犯罪は、薬物、性犯罪、野生動物密輸など、同国内で完結するものが中心だった。日本国内で注目されたケースとしても、日本での詐欺事件の容疑者が2022年と24年にインドネシアへ逃亡・潜伏していた事例にとどまる。

容疑者らは日本の警察手帳を偽造し、詐欺を働いていた=アンタラ通信

 今回の事件は日本人を標的とした詐欺拠点がインドネシア国内に設けられていた点で新しい。犯罪現場となった住宅の隣家の管理人は「民泊はRT/RW(町内会)の枠外にあるため、誰が住んでいるかわからない」と話しており、今後も同様の犯罪が起こる可能性はある。

 前出の警察関係者は「中国、タイ、カンボジアなど従来の拠点国で特殊詐欺に対する取り締まりが強化される中、日本の反社会的勢力が新たな拠点候補としてインドネシアに目を向け始めている懸念がある」と指摘する。

 詐欺の拠点としてインドネシアが利用されることで、長年日本人が培ってきた信用が傷つけられることがあってはならない。在インドネシア日本大使館はインドネシアの警察・入管当局と連携し、情報収集・警戒にあたるべきだ。