インドネシアニュース 第2回 山善が現地販売網を取得ー國井大地のインドネシアM&A最前線
日本企業による東南アジアの現地企業のM&A(合併・買収)は既存の販売網を取得する目的であることが少なくない。工業用の切削工具などを扱う専門商社の山善が3月、機械工具商社のソマグデ・インドネシアを完全子会社化した案件はその点で教科書的M&Aだといえる。
山善は2004年にインドネシア現地法人を設立し、既に20年以上事業を営んできたが、日系の自動車・部品メーカーを顧客に抱える同業を買収することで、より事業展開の加速を図ったとみられる。
開示資料によると、買収先の売上は約34億円、純利益は約1〜2億円程度だ。そのため、買収金額は開示されていないものの、26年3月期連結売上高が5418億円の山善にとっては地に足のついた買収計画だったと言える。

■日本人独力では限界
日本企業には良い製品があるが、それを現地で売るための販売網がなければ、市場には届かない。東南アジアでは販売経路が日本ほど見えやすく整理されておらず、伝統的な小売方法や細かい流通網が残っており、顧客との関係も長年の積み上げに依存する。
また、中国系企業や華僑ネットワークの存在感も大きい。中国企業は意思決定が速く、現地の中華系コミュニティーを通じて話が進むこともあり、日系企業が独力で入り込める範囲も限られている。
こうした状況で、日本から駐在員を送り込み、現地スタッフを雇い、一から営業組織を作るのは効率が悪い。現地の商習慣を理解するにも、日本人駐在員が時間をかけて学ぶより、既に市場で根を下ろしている組織を活用する方が合理的だ。
■買収先、無限ではない
さらに、こうした販売網を持つ企業は無限には存在しない点も重要だ。電子商取引(EC)会社のように新しいプレイヤーが次々に出てくる領域とは異なり、機械工具や部品商社のような販売網は長年の関係性によって形成される。M&Aの対象となる企業は限られており、実際に買収可能な相手となるとさらに限られる。まさに「早いもの勝ち」で、 山善は2月にマレーシアでも機械商社を買収しており、面での販売網の拡大を進めている。
一方で日本企業には、長年築いてきた国際的な信用がある。日本企業であることが、買収候補先にとってネガティブに受け止められることはほとんどない。むしろ日本企業には「ひどいことをしない」「安心感がある」といった「ブランド」がある。そのため、販売網拡大で果敢に買収交渉を進めることは、実は日本企業にとって有利な戦略ともいえる。
■著者略歴
國井大地 慶應義塾大学経済学部卒業後、公認会計士試験に合格。有限責任監査法人トーマツ勤務、不動産テックスタートアップの取締役CFOを経て、2020年に東南アジアのM&Aコンサルタント企業リデルタを創業。