インドネシアニュース 衛星・AIでパーム油追跡

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 宇宙技術の社会実装を手がけるスペーステックアクセラレーター(東京都千代田区)がインドネシアのパーム油産業などを対象に、衛星データと人工知能(AI)、現地情報を組み合わせた農園管理・調達支援事業を進めている。森林破壊リスクや農園の生産状況を可視化し、持続可能な原料調達と生産性向上を両立させる狙いだ。

衛星データと人工知能(AI)を組み合わせることで広大なパーム油農園の状況を把握可能にした=スペース・テック・アクセレレーター提供

■デジタルで課題解決

 同社は2023年5月に設立。社員数は約15人で、「宇宙技術で世界平和に挑む」を目標に衛星技術を社会や産業の課題解決に結びつける事業を展開している。現在、最も力を入れているのがアブラヤシを原料とするパーム油の分野だ。

 パーム油を調達する日本企業には近年、価格や品質面以外にも森林破壊など環境保護や労働者の人権侵害などへの配慮が求められる。しかし、インドネシアの生産現場では農園による生産履歴を追跡する仕組みの「トレーサビリティー」整備が追いつかず、生産地や環境破壊への影響、サプライチェーン(供給網)など全体像を把握できないことが課題として挙げられている。

 このため、同社は持続可能な「サスティナブル調達」の実現に向けて、企業・生産農家・現地評価機関の三者が実際に活用でき、生活の向上につながる社会実装としての事業に取り組んでいる。

■アプリで生産管理も

システムを実際に使ってもらい、問題点や改善アイデアを吸い上げている=同社提供

 同社は農園の状況を把握するため、光学・レーダー衛星などから取得したデータをAIで分析している。 特徴的なのは独自開発のアプリだ。原料を積んだトラックや、生産地から工場までの流通ルートを把握するのに衛星データだけでは難しいため、同社は農家や協同組合、出荷先、生産地などの状況をアプリに集約し、衛星データと組み合わせている。

 具体的には、ある農園で生産量の減少がアプリで判明し、衛星データでもアブラヤシの生育状況に変化が見られれば、肥料不足やアブラヤシの生育状態について即時に判断が可能になる。大規模農園向けにはアブラヤシの本数推計や倒木、植え替えの必要性なども情報提供でき、肥料の量の提案なども可能だ。

 農園の運営企業にとってアブラヤシの本数は資産管理につながるほか、スタッフの日常的な樹木管理にも影響する。人手だけでは難しいこうした課題を衛星データやアプリが手助けし、現地の実態調査と組み合わせることで収益改善やコスト削減への期待が見込まれる。

「現場主義」で持続可能を手助け

■リアウでは実証実験も

 同社は最初の実証事業として、リアウ州プカンバル近郊の農協と協力し、約400人のパーム農家を管理するアプリを開発した。実証は2025年4月から26年6月まで実施し、農家の生産量や農園の状況を記録する仕組みを構築した。

 この実証実験では一定以上の利用が確認できたが、収穫量の増加や利益向上に向けた詳細な検証はこれからだ。現在も同社の担当者が現地に足を運び、農家に対してデータ入力を促しながらサービス利用の定着化を進めている。

 現場導入では、技術習得よりも「データの継続的な入力」が課題になるという。日ごろからの入力作業が短期的にでも収入増に直結しなければ、せっかくのサービスは定着しにくい。

 同社は現時点で小規模農家や農協からサービス料金を受け取らず、アプリを提供する方向で検討を進めている。

■最優先は「信頼」

パーム油の生産現場に足しげく通い、農家や関係当局との信頼性を築いてきた=同社提供

 同社は農協や農園の責任者にシステム導入の意義を説明し、現場で働くスタッフに使ってもらうなど信頼関係づくりを重視している。最高経営責任者(CEO)を務める平賀元気氏は「実際に通ってお願いするのが基本だ」と述べ、衛星やAIだけでは解決できない「現場主義」を強調する。

 既に展開するリアウ州に続き、ジャンビ州でも農園オーナーと連携し、生産性向上を支援する独自アプリの開発を進めている。こちらは将来的に有料サービスとしての提供も視野に入れる。

 また、インドネシア国営農園企業に対しても、衛星を利用した管理サービスの契約締結に向けた協議を進めると同時に、国のシステム開発受注に向け、政府関係者と広大な農地や土地利用の状況を衛星で把握できる計画を話し合っているという。

■パーム油以外の分野にも

 平賀氏は「当社はマレーシアで既に事業を展開しているが、マレーシアの方が制度や農園管理が整っている一方、インドネシアは情報や管理体制に未整備な部分が多い」と指摘する。しかし「課題がある分、新しい技術を試す余地も大きい」としてほぼ毎月、インドネシアを訪れ、農家や農協、政府などとの関係を築いてきた。将来的には現地法人設立も視野に入れるという。

 今後はパーム油で蓄積した農家管理や衛星分析のノウハウを、天然ゴムやココナツ、カカオなど他の農産物にも広げたい考えだ。食品や化粧品、バイオ燃料、農業機械などの分野でも他企業との連携を模索する。

 平賀氏は「パーム油には大きな可能性があるのに、現地の生産現場で新しい日本企業に会うことはほとんどない」と語る。「インドネシアの広大な地で技術やサービスを展開したい企業と、一緒にできることがあればうれしい」と、協業を積極的に呼びかけている。