インドネシアニュース 日本発「STEAM教育」インドネシアへ展開ー「正解」より「問い」 / アゼリー学園、文科省事業にも採択
学校法人アゼリー学園(東京都江戸川区、来栖宏二理事長)が、0~6歳の乳幼児を対象とする独自の教育メソッド「STEAM保育」のインドネシア展開を進めている。同学園の取り組みは、文部科学省の2026年度「日本型教育の海外展開(EDU―Portニッポン)」応援プロジェクトに採択された。現地教育機関との共同研究やモデル園での実践、保育者育成などを計画しており、将来的には日系の幼稚園や保育園、教育関連企業との連携も視野に入れる。

■子ども主体の教育
STEAMは、科学(Science)▷技術(Technology)▷工学(Engineering)▷芸術・教養(Art)▷数学(Mathematics)の頭文字を取った言葉だ。一般には小学生以上を対象とする「STEAM教育」として知られるが、同学園は乳幼児期の発達段階に合わせて再構成した。
科学や数学の知識を早期に教え込むのではなく、日常の遊びを「探究」につなげる点が特徴だ。自然体験や科学を通じた遊び、食育、工作、運動などから子どもが「面白い」「なぜだろう」と気づき、自ら試し、結果を検証して再び考える循環を促す。保育者はすぐに答えを出さず、子どもの疑問を引き出しながら一緒に考える。
例えば食育では、生のタマネギと加熱したタマネギを食べ比べる。生独特の辛みや苦みが、火を通すことで甘みに変わる違いを体験。そこから「なぜ変化したのか」「どう料理すればいいか」という次の問いを引き出す。色水を混ぜて色彩の変化を確かめたり、野菜が水に浮くか沈むかを予想して実験したりするカリキュラムもある。
来栖理事長は「重要なのは特別な教材ではなく、子どもへの声のかけ方や、問いに対してすぐに正解を示さないといった保育者の視点だ」と強調する。
こうした体験を通じ、主体性や協働性、粘り強さ、自己調整力などテストの点数では測りにくい「非認知能力」を育てる。同学園はSTEAM保育を小学校以降の探究型学習を支える「土台」と位置づける。
■ベトナムの大学と展開
STEAM保育はアゼリーグループが2019年に構想を始め、21年から運営施設で実践してきた。「子どもが自ら考えて行動するために、保育者はどう関わるべきか」を現場で検証しながら体系化した。
22年にはベトナム・ダナンの大学と覚書(MOU)を締結し、現地での実践授業や保育者研修を実施。25年4月には大学研究者や保育関係者らによる「STEAM保育研究会」を設立した。現在は法人・個人合わせて約100会員が所属し、15園が同メソッドを導入している。
インドネシアでは、日本とインドネシアの教育交流に取り組む「サクラネシア財団」が橋渡し役を担う。来栖氏は同財団の招きで、教員養成の国立大であるインドネシア教育大学(UPI)を訪問。人工知能(AI)とSTEAM教育をテーマにしたシンポジウムで講演した。
その後、幼児教育の行政関係者とも意見を交わしたほか、イスラム系幼稚園では教員向けに実践事例を紹介した。
来栖氏は「正解を導く教育ではなく、試行錯誤しながら自分で物事を生み出していくプロセスを重視する考え方に、現地の教員から強い共感が寄せられた」と手応えを語る。
現在は、同大の付属幼稚園をモデル園としてSTEAM保育を実践する案が浮上しており、具体的な連携に向け、年内にもMOUを締結すべく準備中だ。
■現地と「ともに育てる」

アゼリー学園はSTEAM保育について、日本から一方的に持ち込むのではなく、現地側と「ともに学び、ともに育てていくもの」と位置づけている。特定の教材・設備に依存しないため、文化や教育環境が異なる海外でも導入しやすいという。
普及の足がかりとして、現地での出版も計画する。アゼリーグループは25年5月、これまでの実践事例などをまとめた書籍「未来へつなぐSTEAM保育」を講談社から出版した。現在は同書を基にしたインドネシア語版の出版をUPIと検討中だ。
■日系幼稚園との協力も
来栖氏は、昨今のAIの急速な普及を背景に、現場の教員自身が「知識や正解を教えるだけでいいのかという疑問を持ち始めている」と指摘する。「正解を教えるのではなく、わからなくても一緒に考えていく姿勢がこれからの教育には必要だ。過去に学んだ内容を次世代へ伝えるだけでなく、将来の社会から逆算し、子どもにどのような力が必要になるかを考えることが重要になる」と考える。
今後は、インドネシアにある日系の幼稚園や保育園、教育関連企業との協力にも期待を寄せる。外部の保育施設も参加する「STEAM保育研究会」を通じ、現地での実践ノウハウや課題を広く共有していく考えだ。