インドネシアニュース 医療機器生産、迫られる「現地化」ー規制強化で強まるパートナー争奪戦
インドネシア政府が医療機器の国産化政策を強め、これまで完成品の輸入販売を中心としてきた外資系企業が対応を迫られている。高度な医療機器を製造できる現地企業は少なく、有力な生産パートナーの確保が今後の競争を左右しそうだ。経営コンサルティング大手ローランド・ベルガーのシニアパートナー・ヘルスケア領域アジア地域責任者の諏訪雄栄氏が、ジャカルタ日報の取材で現状を明らかにした。

■国産化求める動き
「この1~2年は、インドネシアの医療機器関連の相談が増えてきている」。2013~18年にインドネシアで勤務した経験を持つ諏訪氏も直近の変化に期待感を隠さない。
こうした相談件数増加の背景にあるのが政府による医療機器の国産化政策だ。政府調達などで現地調達率(TKDN)が重視され、外資企業にとってインドネシアは、完成品を輸入して販売するだけの市場ではなくなりつつある。従来は包装や最終組み立てだけを国内で行ってきた企業にも、部品調達や設計など、より付加価値の高い工程を移すことが求められ始めているという。
ただ、各社が一斉に工場建設へ動いているわけではない。TKDNが実際の入札結果にどこまで影響するのか、規制運用にはなお不透明な部分が残るためだ。諏訪氏によると、日系企業だけが出遅れているわけではなく、欧米や中国、韓国勢も本格投資には慎重という。
■限られたパートナー
その中で先行しているのが、「現地の生産パートナー探し」だ。
医療機器メーカーは中国やインド、タイなどに既存の生産拠点を構える。インドネシア市場への対応だけを理由に新工場を建てるのは負担が大きく、まず現地企業に生産を委託し、市場の成長に合わせて事業を広げる方法が現実的とみられている。
問題は、その相手が少ないことだ。比較的単純な医療機器はすでに国内生産が進む一方、臨床検査装置や画像診断装置、患者モニターといった高度な電子医療機器を一定の品質で量産・設計できる現地企業は極めて少ないのが実情だ。
こうした中、候補として浮上するのが、自動車や電気・電子、通信関連のメーカーだ。量産設備や品質管理のノウハウを持ち、医療機器への参入意欲と投資能力があれば、有力な提携先になり得る。
もっとも、生産能力の高さだけでパートナーを選定できるわけではない。外国企業との取引経験や経営の信頼性、共同事業を進められる企業文化も必要になる。諏訪氏は、こうした条件を満たす企業は「数えられる程度」と指摘。各国メーカーの現地化が本格化すれば、有力な提携先を巡る争奪戦が激化する可能性がある。
■全ての国産化は困難

一方、TKDNの引き上げに向けて、全ての原材料や部品を国内調達するのは現実的ではない。透析回路やカテーテルなど一部の医療グレード素材は輸入依存度が高く、短期間で供給網(サプライチェーン)を構築するのは難しい。
このため、全工程の国産化を目指すのではなく、設計や組み立て、部品調達など、実現可能な工程を組み合わせてTKDNの規定基準をクリアする戦略が重要となる。ローランド・ベルガーでは、製品ごとに現地企業の技術力や調達可能な部品を調べ、どの製品から現地生産に移すべきかを企業に助言している。
■検査・診断機器に商機
現地化は規制対応だけでなく、市場拡大を取り込む機会にもなる。諏訪氏は、血液や生化学の「臨床検査機器」や、一部の「画像診断機器」を有望分野に挙げる。
例えば、MRI(磁気共鳴画像装置)のような大型・高額製品は、国内需要だけで十分な生産規模を確保できるか慎重な見極めが必要だ。これに対し、超音波診断装置など幅広い医療機関で導入が見込める製品は、現地生産による量産効果が出やすい。病院数の増加や医療サービスの拡充に伴い、患者モニターや小児向け医療機器の成長余地も大きいという。
■輸入国から生産拠点へ
政府が国産化を急ぐ背景には、新型コロナウイルス禍で医療物資の供給が混乱し、輸入依存のリスクが浮き彫りになった経験がある。完成品メーカーの誘致にとどまらず、部品や素材を供給するサプライヤーも呼び込み、国内産業の裾野を広げたい考えだ。
諏訪氏によると、現在の政策が順調に進展すれば、30年ごろには国内の医療機器生産量が流通量を上回り、将来的に輸出産業へと発展するとの予測もある。
インドネシアの医療機器市場は、「輸入して売る」市場から「国内で作る」市場へと構造転換の途上にある。製品選定や移管工程の絞り込み、そして限られた有力パートナーの争奪戦において、どのような経営判断を下せるかが、日系メーカーの今後の競争力を大きく左右しそうだ。