インドネシアニュース 日本発リハビリ技術、アジアへーライフスケイプス、マレーシア足場に展開

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 慶應義塾大学発の医療スタートアップ、LIFESCAPES(ライフスケイプス、東京都港区)が、脳と機械をつなぐブレイン・マシン・インターフェース(BMI)を使ったリハビリ機器の東南アジア展開を本格化している。9~11日にシンガポールで開かれた国際医療展示会「メディカル・フェア・アジア2026」に出展。先行するマレーシアで臨床データを蓄積しながら、インドネシアなど周辺国で現地代理店と医師のネットワークを構築する。

「メディカル・フェア・アジア2026」で事例を紹介したライフスケイプスの林社長=ジャカルタ日報撮影

■AIでリハビリ支援

 同展示会は1997年に始まった東南アジア有数の規模を誇る医療機器の見本市で、16回目となる今年はマリーナベイ・サンズを会場に開催された。40カ国・地域から1000社以上が出展し、人工知能(AI)やロボティクスといった次世代医療技術が主なテーマとなった。

 東京都中小企業振興公社の「東京パビリオン」内にブースを構えたライフスケイプス社は、独自の医療用BMI装置を披露した。同装置は、脳卒中などで重度の手指のまひを患った患者が頭部に装着し、手を動かそうとする際の脳の動きをAIで解析。それに合わせてロボットが手を動かすことで、脳と身体の神経結合の再構築を促し、機能回復を支援する仕組みだ。

■マレーシアに納入

 海外展開で先行するのがマレーシアだ。同社はマレーシア医療機器庁(MDA)の認証を取得し、人的資源省傘下の社会保障機構(PERKESO)のリハビリ施設に5台を納入した。

 同社の林正彬社長によると、試用段階では1施設だけで約3カ月間に20人程度が利用した。日本では主に脳卒中患者への使用経験を積んできたが、マレーシアでは外傷性脳損傷や脊髄(せきずい)損傷、末梢(まっしょう)神経障害など、これまで経験が少なかった患者にも使用されたという。

 初期の臨床データについて林氏は「非常に良好で、日本の症例を上回る機能改善がみられたケースもある」と明かす。ただし、これは人種的な差異ではなく、リハビリ環境の格差が影響した可能性があるという。

 日本では発症早期から一定の治療・リハビリが提供される環境が整っているのに対し、マレーシアではこれまで十分な専門的リハビリを受けられずにいた潜在的患者層が多く、それがはっきりと改善に現れたと林氏は見ている。

 今後はPERKESOで得られた豊富な症例を基に、現地の大学などと共同研究を計画する方針で、年内にはマレーシアの関連学会で講演し、神経内科や脳卒中領域の専門医への認知度向上を図る。公的機関での実績を足がかりに、今後は私立病院や民間のリハビリ施設への導入を本格化させる考えだ。

■実情に合わせて対応

 東南アジア諸国連合(ASEAN)各国への展開において、林氏が最も重視するのは、単なる製品の輸出にとどまらない「医療現場の実情に即した運用のローカライズ(現地最適化)」だ。

 ローカライズでは画面表示や言語の変更にとどまらず、患者の1回あたりの訓練可能時間、週の通院頻度、療法士が担当する患者数など、国や地域で異なる医療体制に合わせて最適な訓練プログラムを再設計する。

 林氏は「現行の医療慣行を尊重しながら、いかに先端技術を融合させるかが重要。現場に混乱を与えない設計が不可欠だ」と指摘。訓練を継続しやすい画面 UI(ユーザーインターフェース)の改良や機器の配置、ケーブル類の取り回しといったハード面も含め、現地の利用者の声を迅速に製品へ反映させていく方針だ。

■カギは医療者教育

 現地の医療従事者への教育も不可欠な要素だ。

 現在は同社の担当者が直接現地に赴くほか、現地の販売代理店を育成し、その代理店を通じて各病院の理学療法士らへ操作方法を伝える体制を敷いている。基本操作自体は、1回1時間程度の研修を数回実施すれば習得可能だという。

 このため、パートナーとなる販売代理店には、通常の医療機器販売とは異なる能力が求められる。リハビリテーション科や神経内科に強い販売網を持ち、比較的高額な高度医療機器を扱った経験があることが前提となる。

 特に重視されるのが、単に仕様書を提示して売る「カタログ販売」ではなく、病院側が抱える課題を吸い上げて最適な導入方法を提案する「ソリューション型」の営業力だ。既存製品を売るのとは異なり、BMIを用いた「新しい治療概念そのもの」を現地の医師や療法士に深く理解してもらう必要があるため、「提携先が日系企業か現地企業かにはこだわらない」と同社は説明している。

 人口規模が大きいインドネシアについて、林氏は「脳卒中などで麻痺を抱える患者が多く、今までのリハビリ方法だけでは十分な機能回復に至らないという課題は、日本やマレーシアと共通している」と分析する。

 同社は将来的に、大規模病院だけでなく、地域のクリニックや介護施設、さらには在宅リハビリ医療まで視野に入れている。

 「日本発の革新的な技術を、本当に必要としている海外の患者に届けたい」と林氏は語る。マレーシアで臨床データを着実に積み上げながら製品を現地仕様へと磨き上げ、代理店や医療関係者のネットワークを広げられるか。今回のシンガポールでの展示会出展は、同社にとってASEAN全域への足場を築く強固な出発点となった。