インタビュー AI時代こそ「志」と経営力ーグロービス創業者・堀義人氏インタビュー
グロービスは6日、現地法人「グロービス・インドネシア」の設立1周年を記念し、「AI時代の起業家精神」をテーマとするセミナーを開いた。同社の創業者でグロービス経営大学院学長の堀義人氏がインタビューに応じ、インドネシアをASEANの重要拠点と位置付ける狙いや、人工知能(AI)時代の経営教育について語った。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文、写真も)

――インドネシアに拠点を設けた理由は。
グロービスが本格的なグローバル化を始めたのは2012年ごろだ。シンガポールと上海を皮切りに米国やベルギー、タイ、フィリピンなどへと広げてきた。なかでもインドネシアは、タイやフィリピンと並んで現地からの受講者が多い。そこでインドネシアや台湾、インド、オマーン(中東)にも進出の一環として拠点の開設を決めた。
インドネシアは人口が多く、市場の潜在力も非常に高い。また、日本への関心も強いことから海外で経営学修士(MBA)を取る際、米国や欧州だけでなく、「日本で英語でMBAを学ぶ」という選択肢も有力になっている。まずジャカルタで前段階の「Pre—MBA(単科)」などを受講し、その後、日本のMBAへ進むか、オンラインで学習を続けるかという入口を作りたい。
――インドネシアの経営人材をどう見るか。
タイと同様にファミリービジネス(同族経営)が非常に多く、2代目や3代目の若い経営者が目立つ。彼らの企業がさらに成長を遂げるには、マーケティングやファイナンス、戦略、組織などを体系的に学び、世界で競争できる経営力を身につける必要がある。
特に若い世代は学びや成長への意欲が高い一方、計画性をさらに鍛える余地もある。例えば「奨学金を得たい」という目標があっても、その後に発生する学費の支払い計画まで十分に詰め切れていないといったケースが見られる。
――インドネシア現地法人の設立で見えてきた課題と手応えは。
まだ我々自身がインドネシアの市場や文化を十分に理解し切れていないことが課題だ。他国では現地出身のグロービス関係者が基盤になってきたが、インドネシアではこれから構築していく段階にある。
一方で、卒業生のコミュニティー(同窓会)は非常に強い。イベントを開けば誰かしらが駆けつけ、「何か手伝えることはないか」と声をかけてくれる。グロービスの認知度が上がっていけば、潜在的な需要は極めて大きいと実感している。
――インドネシア拠点の将来像は。
現在は一部の科目を展開する「ハブキャンパス」の段階だ。受講者が増えれば科目数を拡充して固定キャンパスを構え、将来的には入学から修了まで現地で完結できるMBAキャンパスへの格上げも可能性としてある。
目指すのは「学び、人、ビジネスがつながる場」だ。学生や卒業生、現地企業、ビジネスコミュニティーを結び、グロービスの世界各地の拠点とも連携させる。人が育てば新たな価値が生まれ、企業が成長して雇用や富を生む。そうした好循環を創り出すことが理想だ。

――AI時代におけるMBAの必要性をどう考えるか。
AIについては、以前から指摘していたことが二つある。「AIは間違える」そして「責任を取らない」ということだ。
AIが示した答えが誤っている時に「違う」と見抜くには、思考力と経営能力が不可欠だ。そして、最終的な意思決定を下して責任を取るのも人間以外にいない。AIを外部のコンサルタントのように使いこなし、最後は自ら判断を下す必要がある。
本人の能力が高いほどAIの生産性も向上する。だからこそ、まずは自分の頭で徹底的に考える力をMBAで鍛え、その上でAIを活用することが重要だ。
――AI時代には「志(こころざし)」の重要性も高まるのか。
そうだ。社会が複雑化するほど、「自分は何のために生き、何を実現したいのか」という哲学が求められる。
志は英語の「パーパス(目的)」や「ミッション(使命)」に近いが、社会に対し将来的に何かを成し遂げるというビジョンを伝えるため、あえて日本語の『Kokorozashi』として発信している。MBAでは企業価値や株主価値も重要だが、それ以上に「何のために事業を営み、社会に何を還元するのか」という上位の目的が必要不可欠だ。
また、グロービスではテクノロジーとイノベーションを組み合わせた「テクノベート」という概念も提唱している。AIをはじめとする最先端技術を活用して社会を変革していく。
経営者には、この「何を実現したいか」という志と、それを具現化するために技術を使いこなす能力の両方が必要だ。
――インドネシアで将来的に投資事業を行う可能性は。
十分にあり得る。グロービスは日本でベンチャーキャピタル(VC)事業も手がけており、現地で育成した人材が起業して新事業を立ち上げれば、資本面でも支援できる可能性がある。「人材」「知識」「資本」をつなぐことで、東南アジアでさらに大きな経済的インパクトを生み出せると考える。