インドネシアニュース 米中外交「てんびん」でも険しく
今回の小泉進次郎防衛相とシャフリィ国防相の会談は、東南アジア諸国連合(ASEAN)で装備移転を進めたい日本側の思惑とは別に、インドネシア側の安全保障面における米国への接近という文脈でも捉える必要がある。
■強まる米との防衛協力
米国とインドネシアは4月、主要防衛協力パートナーシップ(MDCP)を締結し、軍近代化や軍事教育、共同演習、運用協力の強化方針を示した。さらに、米軍機によるインドネシア領空の通過を巡る協議や、C130ハーキュリーズ輸送機のアジア地域における維持整備拠点を西ジャワ州クルタジャティ国際空港に設置する構想も浮上している。
プラボウォ政権下で、国軍(TNI)と国防省は「全方位の非同盟外交」を掲げる政府方針を維持しつつも、軍事運用の実務面においては米国への傾斜を強めつつある。
■米中が「さや当て」
ここで注視すべきは、先月、中国・北京で開催された米中首脳会談だ。会談ではトランプ米大統領の任期が終了する3年後の2029年をにらんだ「戦略的安定」が語られたものの、これは米中対立の終息を意味しない。台湾や先端技術、南シナ海を巡る覇権争いは残ったままであり、米中双方が正面衝突を避けつつ次への態勢を整える「さや当て」の期間とみるべきだろう。
米国がインドネシアとの防衛協力を急ぐ背景には、インド太平洋地域の要衝で足場固めを進めたい意図がある。日本とインドネシアによる今回の護衛艦輸出の協議開始は、まさにこの米国の戦略的動きを補完する役割を果たすものだ。
米国が航空輸送や兵站、領空アクセスといった「空」からの関与を強める一方で、日本は艦艇の運用や整備協力で「海」の戦力強化を担う。この日米の役割分担は、対中抑止の観点からも重要な意味を持つことになる。
■警戒強める中国
こうした動きに中国は警戒感を強めている。インドネシアは中国にとって重要な経済パートナーである一方、ナトゥナ諸島周辺海域を巡る主権摩擦も抱えているからだ。日米とインドネシアが軍事的に接近すれば、米軍機がオーストラリアやグアム、沖縄などからインドネシアを経由して展開する「軍事的な動線」が明確になり、また日本による護衛艦移転は、南シナ海で海洋進出を強める中国にとって海上航行での圧力という抑止力になり得る。
■難易度増すバランス外交
インドネシアは「安全保障は日米、経済は中国」という大まかなすみ分けを模索しているようにみえる。だが、日米との間で防衛協力が進めば、中国からの投資停止など具体的な経済的実害が生じるリスクは高い。
先月、中国系企業で構成される「インドネシア中国商会総会」が、プラボウォ大統領宛てに投資環境の改善を求める抗議書簡を提出した。既に経済面において中国側の視線は厳しさを増しており、ここに軍事的な警戒感が加われば、中国をさらに刺激することは避けられない。
ルピアが対ドルで史上最安値を記録するなど、国内経済の先行き不透明感が増すなか、筆頭格の投資国ともいえる中国の機嫌を損ねるのは得策ではないとする慎重論も根強い。こうした声が国内で高まれば、日米との防衛協力に影響が出る懸念もある。
インドネシアは伝統的に「自由かつ積極的」な独立外交を掲げているが、激化する米中対立の狭間で、どこまで精緻な外交バランスを保ち続けられるか。今後の針路が注目される。