アジアン鉄道ライター 高木聡 新路線乗車ルポ 3500ルピアの破格料金ーブロックM―スカルノハッタ空港行きバス
スカルノハッタ国際空港(バンテン州)からジャカルタ中心部まで、わずか3500ルピア――。州営トランスジャカルタ(TJ)がこのほど、ブロックM―スカルノハッタ空港線(SH2系統)の運行を始めた。SH2はTJの通常運賃と同じ3500ルピア。配車アプリサービスや民間運営のバスに比べると、空港アクセスとしては破格の安さだ。では実際に使えるのか。第三ターミナルからブロックMまで乗車し、利便性を確かめた。(アジアン鉄道ライター 高木聡、写真も)

■わかりにくい乗り場

多くの日本人利用者が降り立つ第3ターミナルから出発してみよう。しかし、到着ロビーを出てもTJの案内表示は見当たらない。空港からTJに乗るには、まずスカイトレインで空港鉄道駅へ向かわなければならない。
この時点で、初めての利用者には少々難しい。旅行者向け路線として開設されたSH2だが、旅客ターミナルへの直接乗り入れは実現していない。空港を管理する国営インジャーニー・エアポート側も、TJを空港アクセスとして十分に案内しているわけではないからだ。
スカイトレインは、第3ターミナルから第2ターミナルを経由し、空港鉄道駅へ向かう。乗車時間は7分ほど。ただし運行間隔はおおむね13分で、待ち時間が発生する。ターミナル前からそのまま乗れるエアポートバスや配車アプリと比べると、この乗り換えが最初の大きな差になる。
空港鉄道駅でエスカレーターを降りると、駅前の車寄せにTJの発着場所がある。だが、ここにも目立つ看板はなく、道路標識のような細いポールが立っているだけだ。近くにベンチはあるものの、空港内シャトルバス用の待合スペースとしては、市内に向かうバスだとはわかりにくい。
■現金やクレカは使えない

SH2には時刻表がない。TJの一般路線と同じく、公式案内では15〜20分間隔の運行となっているが、実際には道路状況に左右される。そこで頼りになるのがTJの公式アプリだ。バスの現在位置と到着予測を見ることができる。
この日は運が良く、アプリ上では約5分で到着すると案内されたが、ここで落とし穴があった。先に来たのは、アプリに表示されていなかったSH1のバス。待っていた十数人が次々と乗り込んだため、危うく乗り間違えるところだった。
SH1はカリデレス(西ジャカルタ)―スカルノハッタ空港線で、ブロックMには向かわない。車掌が乗っていない車両もあり、行き先表示を自分で確認する必要がある。
その直後、目的のSH2が到着した。車内からは15人ほどが降り、スカイトレイン方面へ向かっていった。空港から乗ったのは筆者を含めて5人ほどだった。

SH2には車掌が乗車しており、初めて使う旅行者にとっては安心感がある。車両は「メトロトランス」と呼ばれる低床バスで、一般的な路線バスタイプだが、中扉脇の低床スペースの一角では座席が撤去され、荷物置き場になっていた。スーツケース利用をある程度想定している。
運賃の支払いは、乗車時と下車時に銀行系電子マネーカードを車載端末にタッチする方式で、現金やクレジットカードは使えない。旅行者はこの点に注意が必要だ。
■ブロックMまで48分

バスは午前11時半ちょうどに発車した。空港施設内では入管事務所前に一旦停車し、その後は空港高速道路へ入る。
日曜日の昼前で交通量は少なく、走りは順調だった。空港高速道路から都心環状線に入り、スリッピ料金所で高速を降りる。ここまで約30分。経路は国営バス会社ダムリのエアポートバスと大きく変わらない。
その後、スリッピ、国会議事堂(DPR)周辺のバス停に停車しながら南下した。スディルマン通り沿いのスミットマス前には午後0時10分に到着。ここはMRT(都市高速鉄道)スナヤン駅に近く、乗り継げば中心部や南ジャカルタ方面への移動もしやすい。
終点のブロックM6番乗り場に着いたのは午後0時18分だった。空港鉄道駅前を出てから48分。スカイトレインの待ち時間を含めなければ、空港からブロックMまで1時間以内で到着したことになる。
渋滞がなければ、3500ルピアという運賃を考えると驚くほどのコストパフォーマンスだ。
■空港行きの乗り場に注意

TJ職員によると、SH2は平日14台、土休日10台のバスで運行しており、できる限り20分間隔を維持するよう努めているという。
ブロックM側では、運転間隔を調整するために3台ほどのバスが待機していた。一方、空港側には長時間駐車できる場所がなく、到着したバスがそのまま折り返す。このため、空港側で明確な発車時刻を掲示するのは難しいという。
ブロックMから乗る場合にも注意が必要だ。日本人利用者は、自動改札機のある1番乗り場へ向かいがちだが、SH2は改札を通らず、6番乗り場から乗車する。支払いは車内端末へのカードタッチで行う。なお、スディルマン通りでカーフリーデーが実施される時間帯は「スリッピ―空港間」の短縮運行になるため要注意だ。
■州の後押しで低価格実現

これほど安い空港アクセスが実現した背景には、ジャカルタ特別州の公共交通政策がある。
インドネシアではこれまで、空港アクセスは「非日常的な利用」に区分され、運行補助金(PSO)の対象になりにくかった。また、空港施設内に不特定多数の人を入れたくないという保安上の事情もあり、バスも鉄道も市内路線に比べて運賃は高めの設定だった。
その前提を大きく変えたのが、ジャカルタ特別州によるTJ路線の拡大だ。プラモノ州知事は就任後、ジャカルタ特別州と周辺行政地域(ボデタベック=ボゴール、デポック、タンゲラン、ブカシ)を結ぶ公共交通の強化を掲げてきた。州外へ伸びる長距離路線も、ジャカルタ特別州のPSOで運行されている。
SH2もこの流れの一つだ。州外にあるスカルノハッタ空港へ、州営交通が通常運賃で乗り入れる。従来は中央政府や国営企業が主導してきた空港アクセスに、州政府が踏み込んだ格好である。
■アクセスの主導権争いも

TJは2023年から、SH1系統としてカリデレス―スカルノハッタ空港線を運行している。しかし、SH1は主に空港施設で働く西ジャカルタ住民向けの通勤路線という性格が強かった。旅客ターミナルには直接乗り入れず、当初は朝夕中心の運行にとどまっていた。
これに対し、SH2の起点は商業地のブロックMだ。MRTやTJ各路線が集まる南ジャカルタの交通結節点であり、利用者としては空港旅客を明確に意識している。
ブロックMでは、州営MRTジャカルタ(MRTJ)によるバスターミナル再開発も決まっている。従来は複数のバス会社が乗り入れていたが、現在は6つの乗り場全てがTJに統一された。ダムリ社のエアポートバスはターミナル外へ移されている。
SH2は単なる新路線ではない。ブロックMを州主導の交通ハブに育て、空港アクセスの一角も取り込むという、ジャカルタ首都圏(ジャボデタベック)の公共交通再編の一部でもある。
タクシーや配車アプリなど他の交通手段と比べても3500ルピアという安価な運賃は魅力であることは間違いない。今後、運賃が引き上げられるとの報道もあるが、仮に運賃が倍になっても、なお割安感は大きい。継続的な運行に期待したい。