インタビュー ノンハラール焼肉「六角」で商機ージャカルタに新業態 篠崎レインズ・マリンド社長に聞く

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 インドネシアで焼き肉チェーン「牛角」を運営するレインズ・マリンド・インドネシアがこのほど、イスラム教の「ハラール」に非対応(ノンハラール)の食べ放題の焼き肉店「六角」をジャカルタのラトゥプラザに開店した。牛角本体がハラル認証を取得し、地方展開の基盤を整える一方、新業態の六角では酒や豚肉を楽しみたい日本人などの外国人や中華系インドネシア人の需要を狙う。開店の背景などを同社の篠崎孝太社長に聞いた。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文、写真も)

ノンハラール市場の展望を語る篠崎社長

 ——「六角」を立ち上げた理由は。

 ◆インドネシアでは珍しい、ノンハラールの食べ放題レストランを展開するためだ。

 きっかけは、牛角が2024年11月にハラール認証を取得したことだった。牛角は当時インドネシア各地で40店舗以上を展開していたが、ジャカルタ市内では出店余地が限られ、地方展開を進めるにはハラール認証が不可欠だった。

 一方で、認証を取ると店内への酒類などノンハラール商品の持ち込みを断らなければならない。以前は、アルコールを販売していない店舗であっても、お客さまが持ち込む分は容認していた。

 しかし全面禁止となったことで、日本人をはじめとする外国人や中華系インドネシア人の客から惜しむ声が上がり、利用動向にも変化が出始めた。そうしたノンハラール需要に応えるために何ができるかを模索した結果が、六角の出発点だ。ちなみに店名は、調和を意味する「六角形」に、牛角グループを意味する「角」を組み合わせた。

 ——ノンハラール市場の規模をどう見ているか。 

 ◆インドネシアの人口は大きく、ムスリム(イスラム教徒)以外の人口層も10〜12%程度存在するとされる。人数に換算すれば2000万〜3000万人規模だ。さらに、日常的に酒や豚肉を楽しむ日本や韓国、中国などの在留外国人も一定数いるため、十分に勝算のある市場だと判断した。

 ジャカルタでお酒を好む層には購買力の高い中華系インドネシア人も多く含まれる。近年、市内中心部のセノパティ地区などを中心に高級焼き肉店が増加傾向にあるが、当社は超高級業態を目指しているわけではない。牛角と同じく「良いものをリーズナブルに」という考えを重視している。

会食にも使えるよう高級感を演出した「六角」の店舗=レインズ・マリンド提供

 ——出店先にラトゥプラザ(中央ジャカルタ)を選んだ理由は。

 ◆ターゲット層に適した立地と判断したためだ。在住する日本人の視点で見れば(日本人が多い)ブロックMやガンダリア周辺から週末に車で10分程度とアクセスが良い。平日は外資系企業が集まるビジネス街やセノパティ地区にも近く、中華系のお客様も集まりやすい場所だ。

 ジャカルタでは気軽に豚肉を食べられる飲食店が少なく、まして食べ放題となればほとんど無い。ただ、イスラム教徒が多数派の国であるため、公然と「豚肉を食べに行く」というよりは、適度に目立たず、かつ足を運びやすい立地であることが重要とも考えた。 

 また、中華系のお客様は駐車場の有無をとても気にする。ラトゥプラザは駐車場が停めやすい。通行客が飛び込みで入る店ではなく、目的を持って予約して訪れる店を目指したため、商業施設のにぎわいよりも、アクセスの良さや駐車の利便性を優先した。実際、現在の来客も多くが予約客となっている。

 ——実際の客層は想定通りか。

 ◆当初は日本人が中心だったが、ラマダン(断食月)やレバラン(断食月明け大祭)を経て、現在は中華系のお客様の割合が増加している。現地のローカル客に支持されていることは大きな手応えだ。

 この手応えを踏まえれば地方展開も視野に入るが、地方には特有の難しさもある。スラバヤやメダン、バリ島のように中華系住民や非ムスリムの食文化が根づく地域には可能性がある一方、現地には豚肉を提供する競合のローカル店も多い。そうなると、ジャカルタ中心部ほどの「豚肉を気兼ねなく、お腹いっぱい食べたい」という希少性は薄れるため、また異なるブランディング戦略が必要になるだろう。

「六角カルビ」は単品注文すると金の皿で提供される=同

 ——メニューの特徴は。

 ◆食べ放題は2コースで、価格帯は約30万ルピアと約50万ルピアに設定した。下位コースであっても牛肉、豚肉、鶏肉を十分に楽しめる構成だ。また、中華系は上位メニューを選択する人が高い。そのため六角では、通常の「牛角カルビ」より肉質をより高めた「六角カルビ」を開発した。単品注文の際には金色の器で提供するなど、特別感の演出にもこだわっている。

 ——既存の「牛角」「牛角プライム」とのすみ分けは。

 ◆六角は牛角より上の価格帯設定だが、牛角プライムとは別軸で考えている。六角も牛角プライムも富裕層を意識しているが、アプローチが違う。牛角プライムが和牛をはじめとした「肉の質」を極める業態であるのに対し、六角はノンハラール、特に「豚肉も含めた食べ放題」という点が強みだ。客単価としては牛角プライムの方が高い。

 ——内装やサービス面での差別化は。

 ◆店内は高級感を意識し、会食でも利用できるよう個室も3室用意した。六角ではセットメニューを注文したテーブルでスタッフが肉を焼くサービスを取り入れるなど、ビジネスの商談などに集中しやすい環境を整えた。

 ——競合他社については。

 ◆食べ放題で、豚肉まで提供する同業チェーンは現時点では少ないと認識している。ただ、六角と同じく1人あたり30万〜50万ルピアを消費できる客層には、焼き肉以外にも多くの選択肢が存在する。この価格帯における外食産業全体が競合相手になると考えている。

六角は豊富なメニューを用意し、プライベートでの食事も対応している=六角のインスタグラムより

 ——ルピア安の影響は。

 ◆打撃はある。米国産牛肉を中心に調達している当社としては輸入コストの押し上げ要因となる。しかし、こうした局面だからこそ、顧客満足度を下げずにどう工夫するか、企業努力が問われる場面だと思う。

 日本では当たり前とされる業務改善だが、インドネシアで一般的とは限らない。メニューを定期的に見直す飲食店は少ない。だからこそ、継続的にこれを実行することが差別化につながる。

 一例としては、日本の知的財産(IP)とコラボレーションした企画を実施した。焼肉だけではない「来店する楽しさ」という体験価値も作っていきたい。実際に限定コラボカードを楽しんだり、店内での動画撮影を楽しむ家族連れなどでにぎわうなど、確かな手応えを感じている。

 ——食材の輸入割当減少の影響は。

 ◆一定の影響はある。食料自給を重視する政策環境の変化を踏まえ、牛肉や乳製品についても国内供給への関心が高まっており、当社としてもその動向を注視している。

 ただ「国産牛を使え」とと言われても、品質をいかに担保するのかという問題がある。焼肉は肉そのものを味わう料理のため、お客様には違いがすぐにわかってしまうからだ。

 以前、インドネシア産の牛肉を試した際、米国産や豪州産との間に明らかな品質の差を感じた。インドネシアの牛は放牧による草食(グラスフェッド)を中心に育つため、ジューシーさに欠ける傾向がある。また、畜産農家の大規模化が進んでいないため、複数の農家から買い集める段階で肉質にばらつきが出やすく、品質管理が難しい。ただし、今後の生産体制の近代化には期待しており、状況を見極めながら最適な調達網を検討していきたい。

 ——今後、ハラール規制はさらに強まると見ているか。

 ◆そうした傾向は感じる。実際の具体化については見極めが必要だ。飲食店に限って言えばノンハラールであることを明確に示せばよいという見方もあり、必ずしも深刻な打撃にはならないと考えている。