インタビュー 「空飛ぶクルマ」インドネシアで商用化へースカイドライブ・大木泰樹氏インタビュー 都市の渋滞解消や鉱山輸送に勝機
「空飛ぶクルマ」の開発・製造を手掛けるスカイドライブ(本社・愛知県豊田市)は、インドネシアを海外展開の重点市場と位置づけ、現地のヘリコプター運航会社と商用化に向けた取り組みを進めている。6月にはジャカルタ近郊のチェンカレン・ヘリポートで、海外初となる実物大モックアップ(模型)を展示。同社の海外事業開発・渉外統括ディレクターの大木泰樹氏に進出の背景と商用運航への道筋を聞いた。(写真は全て同社提供)

——インドネシアを東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で重点市場と位置づけた理由は。
◆海外展開については複数の国で検討してきたが、インドネシアは事業として成立する具体的なユースケース(用途)が、最も明確に見えている市場の一つだ。
特に可能性を感じているのが、ジャカルタ首都圏における都市型エアタクシーと、カリマンタン島などの鉱山地域における業務輸送だ。この二つが、インドネシアでの事業化を後押しする重要な用途になると考えている。
インドネシアで持続可能な事業モデルを構築できれば、他のASEAN諸国への展開にもつながる。日本企業とインドネシア政府、現地企業が協力し、次世代航空モビリティーという新しい産業を共につくる試金石にしたい。
——都市部では、どのような需要を見込んでいるのか。
◆ジャカルタ首都圏では慢性的な交通渋滞が続いており、人や物の移動に長い時間がかかっている。渋滞は社会生活だけでなく、企業活動の大きな制約にもなっている。
空飛ぶクルマを活用すれば、道路状況に左右されず、都市内や都市間を短時間で移動できる。既存のヘリポートや、将来的に整備される小規模な離着陸拠点を結ぶことで、新たな都市交通の選択肢を提供できると考えている。

——都市部以外ではどのような活用方法が想定されるか。
◆インドネシアではニッケルや石炭の鉱山、パーム油プランテーション(大規模農園)などが広大な土地に点在する。道路事情が十分ではない地域も多く、移動に長い時間を要する。
鉱山では、エンジニアや管理職の移動や医療搬送、設備点検、緊急時の対応など、さまざまな航空輸送の需要がある。現場によっては陸路で数時間かかる区間を、空路なら短時間で移動できる可能性がある。従来からヘリコプターが担ってきた用途の一部を、電動航空機に置き換えることで、より低い運航コストと環境負荷で提供することを目指している。
——ヘリコプター運行会社ホワイトスカイ・アビエーションと連携する意義は。
◆ホワイトスカイ社はインドネシア有数の企業で、チャーター輸送、医療搬送、観光飛行などを展開し、ジャカルタ市内でも既存のヘリポートを活用した運航実績を持っている。
日本では、ヘリコプターが都市部を日常的に飛ぶ場面は限られているが、インドネシアでは既にヘリコプターを利用した移動サービスの市場と運航ノウハウが存在する。その実績を持つ同社と組めることには、大きな意味がある。
単に機体を販売するだけでは「空飛ぶクルマ」の事業は成立しない。航路の設計、需要の把握、事業計画、運航体制、人材育成、離着陸拠点の整備、当局との調整などを一体的に進める必要がある。同社とは、こうした商用運航の全体像を見据えた協業関係を構築している。
——開発している機体の特徴は。
◆当社が開発している「空飛ぶクルマ」は電動モーターで複数のプロペラを回し、垂直に離着陸するeVTOLと呼ばれる航空機だ。
従来のヘリコプターに比べ、騒音を抑え、機体価格や整備費用も低減することを目指している。エンジンを使う航空機と比べて構造が比較的シンプルで、部品点数も少ないため、保守や整備にかかる負担を下げられる可能性がある。
大規模な滑走路を必要とせず、小規模な離着陸場と充電設備があれば運用できる点も特徴だ。都市部だけでなく、鉱山や農園、島しょ部など、交通インフラが十分ではない地域でも活用できると考えている。

——航続距離はどの程度を想定しているのか。
◆現時点で想定している航続距離は約15キロメートルだ。まずは比較的短い区間を、高頻度で結ぶ用途から事業化していくことを考えている。
今後バッテリー性能が向上すれば、2030年代には40キロメートル程度まで航続距離を延ばす構想も描いている。機体そのものを全面的に作りかえなくてもバッテリーを更新することで性能を向上できる。電池技術の進歩を継続的に取り込めることは、電動航空機の大きな特徴の一つだ。
——6月の実物大モックアップ展示ではどのような反応があったか。
◆「空飛ぶクルマ」という言葉だけでは、実際の大きさや使い方を具体的に想像するのは難しい。今回、実物大のモックアップを見てもらい、機体のサイズや客室、搭乗時の感覚を体験してもらうことで理解が大きく進んだ。
来場者からは「思っていたより実用的だ」「実際の業務に使えるのではないか」といった声が多く聞かれた。
都市交通だけでなく、鉱山、農園、医療搬送、設備点検など、幅広い用途について意見が出た。インドネシア運輸省航空総局をはじめ、政府関係者や事業者に具体的な機体像を示せたことは大きな前進だった。
——政府や航空当局とは、どのような協議を進めているのか。
◆航空機を商用運航するためには安全性を証明する型式証明や操縦、整備、運航に関する制度を整える必要がある。
当社は現在、日本で型式証明の取得に向けた手続きを進めている。同時に、インドネシア政府や航空当局とも機体の認証制度や運航ルールについて意見交換を重ねている。
インドネシア側も安全性を最優先にしながら、新しい航空技術の導入には前向きな姿勢を示している。日本の国土交通省とインドネシアの航空当局との連携も視野に、両国間で認証や制度をどう調整していくかが重要になる。

——いつごろの商用運航開始を目指しているのか。
◆制度整備や型式証明、運航体制の構築が計画通りに進むことが前提になるが、29年ごろの商用運航開始を一つの目標としている。
航空分野では安全性の確認に十分な時間をかけなければならない。機体が完成しただけですぐに乗客を運べるわけではない。認証のほか訓練、整備、離着陸拠点、充電設備、運航管理など必要な要素を一つずつ整える必要がある。
ホワイトスカイ社や政府関係者、関係企業と連携しながら、実際に持続可能な事業として運航できる体制をつくっていきたい。
——日系企業にはどのような参入機会があるのか。
◆「空飛ぶクルマ」の事業は、機体メーカーだけでは成立しない。運航会社以外にもインフラ、エネルギー、IT、金融、整備、さらには人材育成機関など、多くの事業者が関わる必要がある。
「空飛ぶクルマ」を安定的に快適に利用してもらうための環境整備を含めて、多くの日系企業と連携し、機体を中心とした新たな産業のエコシステムを構築していきたい。