インタビュー インドネシアにパンの「手作り」文化をー佐藤修一・富澤商店取締役インタビュー

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 創業107年を迎える製菓・製パン材料専門店、富澤商店(本社・東京都町田市)は、インドネシアの製菓材料メーカー大手ポンダン・パンガン・マクムル・インドネシアと合弁会社を設立し、現地市場への本格参入を進めている。家庭でパンや菓子を作る「手作り」の食文化を中間層に広げられるか。海外事業を担当する佐藤修一取締役に、進出の背景と今後の戦略を聞いた。

合弁会社のオープニングセレモニーの様子。富澤商店の富澤淳社長(左から3人目)、佐藤修一取締役(左端)とポンダン関係者ら=富澤商店提供

 ——進出を決めた背景は。

 ◆富澤商店は1919年創業で、家族経営の下、長年にわたり日本国内で製菓・製パン材料を扱ってきた。2022年から海外展開を本格化し、ベトナム、マレーシア、シンガポールで事業基盤を築いてきた。インドネシアも重要市場として見ており、現地企業とのジョイントベンチャーという形で進出することにした。

 ——現地市場の可能性をどう見るか。

 ◆私は30年以上、東南アジアの食品市場を見てきた。インドネシアの製粉、製パン業界にも深く関わり、市場の変化を見てきた。

 所得水準が上がると、食生活は段階的に変化する。まずはインスタント食品を買う。その次にパンやケーキなど完成品を買う。そしてさらに生活水準が上がると、「安心・安全でおいしいものを自分で作りたい」という需要が生まれる。

 インドネシアでは中間層が拡大し、家庭での製菓・製パンを楽しむ市場がようやくでき始めたと見ている。自分で作る、家族で一緒に楽しむ、そうした「作る楽しさ」を広げていきたい。

富澤商店は東京・丸ビル店など全国に店舗を持つ=同社サイト

 ——パートナーにポンダンを選んだ理由は。

 ◆ポンダンは、現地の製菓材料市場で非常に強いブランドだ。創業家が50年近く、安定した経営を続けている。

 ブラウニーミックスやケーキミックスなど、スーパーの製菓材料売り場では多くの商品が並んでいる。全国規模の販売網を持ち、トップクラスのシェアがある。製造設備も国際規格に則った高品質な工場を持っており、流通、ブランド、品質管理の面で非常に優れている。

 一方、当社には100年以上にわたる製菓・製パン材料の調達力、商品開発力、レシピ提案力がある。ポンダンの現地基盤と当社の日本品質・ノウハウを組み合わせることで、大きなシナジー(相乗効果)が生まれると考えた。

 ——販売商品はポンダンブランドになるのか。

 ◆当社の独自ブランド「Tomi Shou」として展開する。既に進出済みの他市場でも使っている「やまト」のロゴを用い、インドネシアでも日本品質のブランドとして育てていく。最初はホットケーキミックスなど、家庭で使いやすいデザート・パンミックスから始め、その後、ラインアップを順次広げていく。

 ——既存のポンダン商品との違いは。

 ◆ポンダンの商品は、長年インドネシア市場で支持されてきた商品だ。当然、インドネシアのお客様の好みに合わせ、甘さや色味を比較的はっきり感じられる設計になっている。

 一方で、「Tomi Shou」ブランドでは、日本で培ってきた繊細な味づくりを提案していく。日本のお菓子やパンは、素材そのものの風味を大切にする。甘さは控えめで、色合いも自然だ。そうした日本らしい味わいを、インドネシアのお客様にも楽しんでいただきたい。

日本国内で販売中のケーキミックス。これをベースに、インドネシア国内でも同種商品を発売予定だという=同社提供

 ——顧客ターゲットは。

 ◆二つの軸で展開する。

 一つはBtoC、つまり一般家庭向けだ。ポンダンの販売網を活用し、家庭で手軽に使える商品を届けていく。

 もう一つは、BtoBの業務用市場だ。街のベーカリー、ケーキ店、カフェ、ホテル、レストランなどに対し、高品質な製菓・製パン材料を提供していく。大手企業だけでなく、小規模事業者にも使いやすい原料や大容量商品を提案していきたい。

 ——業務用市場での強みは何か。

 ◆重要なのは品質の一貫性だ。ベーカリーやケーキ店では、「今日はパンが膨らまない」「昨日と味が違う」ということが起きると、商売に直接影響する。安定した原材料を使うことは、店舗経営にとって非常に重要だ。

 インドネシアでは、ハラル認証、インドネシア食品医薬品監督庁(BPOM)登録など、日本とは異なる制度対応も必要になる。当社は日本での実績に加え、東南アジア諸国連合(ASEAN)の他国での経験もある。安心・安全で、商業ベースでも信頼できる品質を届けたい。

 ——日系企業や在留邦人に向けたメッセージは。

 ◆日本人駐在員の方々がこれまで一時帰国時に買って持ち込んでいた製菓・製パン材料を、インドネシアでも手に取れるようにしていきたい。ベーカリー、カフェ、ホテル、レストランなどを運営されている方々にも、日本品質の原材料を安定的に使える選択肢を提供したい。