インドネシアニュース 第3回 エニマインド 現地EC支援部隊を獲得ー國井大地のインドネシアM&A最前線

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 エニマインドグループがインドネシアの電子商取引(EC)支援企業デジタル・ディストリビューシ・インドネシア(DDI)を買収した事例は、単なる顧客基盤の取得ではなく、現地で実際に事業を動かす「実行力」を取り込んだ点で示唆に富む。

リデルタの國井大地社長

■現地実務チームが必須

 エニマインドは2016年の創業で、広告、インフルエンサー、EC運用、物流、ライブコマースなどを一体で提供するプラットフォーム企業として成長してきた。

 一方、DDIは19年に創業。ブランド企業がShopee(ショッピー)やTokopedia(トコペディア)、TikTok(ティックトック)ショップなどのECサイトで商品を販売する際の店舗運営や商品ページ管理、販売促進、カスタマーサービスなどを包括的に支援する。

 エニマインドは23年5月、DDIの全株式取得に合意し、同年9月に買収を完了した。両社の組み合わせは、デジタル広告会社が広告枠や認知拡大の領域にとどまらず、実際の販売や在庫、顧客対応、物流、購買データまで踏み込んだものだ。

 消費財メーカーやコスメブランドがインドネシアでオンライン販売を拡大しようとしても、各プラットフォームの運用を自社だけで回すのは容易ではない。日々の投稿、キャンペーン、ライブ配信、在庫調整、問い合わせ対応を継続的に行うには、現地市場に精通した実務チームが必要になる。エニマインドがDDIを取得した意味は、まさにこの現地運用力の獲得にある。

■創業者を幹部に受け入れ

 さらに注目されるのは、DDI創業者がエニマインドの幹部に就いた点である。買収先の経営者を親会社側の経営陣に組み込むことで、ローカル企業の知見をグループ全体に吸収する形が取られた。

 インドネシア企業では、経営者と社員の関係が家族的な結びつきを持つことも少なくない。買収後にトップを急に入れ替えれば、社員の不安や離職、組織内の摩擦を招く可能性がある。既存の経営者を残し、さらにグループ側の意思決定にも関与させることは、現場の連続性を保ちながら統合を進めるうえで有効な手法だ。

 また、M&A(企業の合併・買収)では、買収後にどのようなシナジー(相乗効果)を生むのかが常に問われる。特にオーナー経営者が育てた会社を売却する場合、自社が買収後にどう扱われるのかは売り手側にとって大きな関心事となる。

 エニマインドの場合、DDIのEC運用機能をインドネシア単独で活用するだけでなく、自社が東南アジア各国で展開するEC支援などの事業に引き継ぎたいという意図が明確だった。このように、買収後の戦略が何かわかりやすいことは、売り手側の納得感にもつながる。

■東南アジア市場は成長

 今回のM&Aの背景として、東南アジアにおけるEC市場の拡大がある。日本国内の市場は人口減少により大きな成長を描きにくい一方、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポールなどでは所得水準の上昇とスマートフォン利用の広がりを背景に、消費財、化粧品、食品、日用品のオンライン販売の余地が拡大している。

 ただし、現地ECの主戦場は日本企業にとってなじみのあるAmazon(アマゾン)ではないうえ、各国・各地域で強いプラットフォームがそれぞれ異なる。日本企業がこうした状況で商品を売るには、現地の商慣習、販促手法、消費者行動を理解した事業者が欠かせない。

■大手参入しないが魅力的

 この領域は、大手企業や総合商社が必ずしも拾いやすい分野ではない。総合商社は取引額の大きい資源、インフラ、製造業、食品流通などを主戦場としてきた。一方、DDIのようなEC支援企業は案件規模だけを見れば小さく見えることも多い。

 しかし、消費者との接点がオンラインに移るなかで、こうした現場運用企業はブランドの販売力を左右する重要なインフラになりつつある。このことはより注目されるべきだ。

 エニマインドのDDI買収が示すのは、インドネシア進出に必要なのは「売り場」を確保することだけではないという現実である。デジタル化が進んでも、最後に事業を動かすのは現地の人材だ。今回の買収案件は、顧客や設備だけでなく「現地実行力」そのものが買収対象になり得ることを示している。


■著者略歴

 國井大地(くにい・だいち) 慶應義塾大学経済学部卒業後、公認会計士試験に合格。有限責任監査法人トーマツ勤務、不動産テックスタートアップの取締役CFOを経て、2020年に東南アジアのM&Aコンサルタント企業「リデルタ」を創業。