インタビュー 海洋、エネルギーなど3分野で連携重視ー植野大使「長年の信頼が日本の強み」
植野篤志・駐インドネシア日本大使がこのほど、ジャカルタ日報のインタビューに応じ、今後の両国関係で海洋、エネルギー、人材育成・活用の3分野を重視する考えを示した。中国企業などが存在感を増す中、日本企業の競争力については長年にわたる雇用創出や技術移転で培った信頼を強調。8月の着任から2カ月を迎えた植野大使に、外交方針やインドネシア経済の展望などを聞いた。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文、写真も)

——インドネシアの印象は。
◆人々の日本に対する感情が良く、日本人や日本製品への信頼も厚い。インドネシア駐在は初めてだが、仕事でジャカルタを何度も訪れ、故安倍晋三元首相のバンドン(西ジャワ州)訪問に同行したこともある。以前から重要な国だと考えていたが、赴任してその思いを一層強くしている。
日本とインドネシアは1958年の外交関係樹立以来、交流を積み重ね、2023年には包括的・戦略的パートナーとなった。多くの人々が長年築いてきたこの良好な関係をさらに発展させたい。
——今後、特に力を入れる分野は。
◆海洋、エネルギー、人材育成・活用の3つだ。
——海洋分野での具体的な協力は。
◆日本もインドネシアも海に囲まれた海洋国家で、これまでも政府開発援助(ODA)による離島開発や、インドネシア海上保安機構(バカムラ)への巡視艇供与などを行ってきた。
さらに2024年度からは、政府安全保障能力強化支援(OSA)の枠組みを通じ、インドネシア海軍への高速警備艇供与にも取り組んでいる。海上防衛能力と海上法執行能力を高めることは、地域と両国にとって極めて重要だ。

——エネルギー協力の可能性は。
◆中東情勢の影響もあり、両国ともエネルギーの安定確保や価格安定が課題となっている。インドネシアは豊富な資源を有しており、地熱発電やバイオマスなど再生可能エネルギーを拡大する余地は大きい。
脱炭素化を後押しすると同時に、日本企業が事業を通じてカーボンクレジット(温室効果ガス排出権)を獲得できる可能性もある。エネルギー安全保障と脱炭素化を両立させ、双方にメリットのある協力を進めたい。
——人材分野での連携は。
◆少子高齢化に伴う日本の人手不足は深刻で、日本企業からは優秀なインドネシア人材を採用したいという強い要望がある。一方、インドネシアは若年人口が多い半面、若年層の失業率が高い。互いを補い合える関係にあり、人材育成と活用を通じた協力には大きな可能性がある。
——足元のインドネシア経済をどう評価するか。
◆着任から間もないので実感を持って語ることは難しいが、ルピア相場や株式市場の動向を見ると一様ではなく、進出する日本企業も苦心していると認識している。しかし、広い国土や豊富な資源、巨大な人口を背景とした潜在力は間違いなく高い。短期的には厳しい局面があっても、中長期的にはさらに発展を遂げる国だと考えている。

——中国や韓国の企業が存在感を増しているが、日本企業の強みは。
◆商社の中には100年以上前から拠点を構える企業があり、製造業でも半世紀以上にわたり進出している企業が多い。これほど長期にわたり現地に根を下ろして事業を継続してきたこと自体が大きな強みだ。
日本企業が中長期的な視点で現地雇用を創出し、人材育成や技術移転を進めてきた実績が、インドネシアの産業高度化に貢献している。こうした地道な蓄積こそが、日本や日本製品に対する現在の厚い信頼を支えている。
——中国外交に長く携わった立場から、インドネシアと中国の関係をどう見るか。
◆10年に中国の国内総生産(GDP)が日本を上回ってから、中国の経済規模は拡大し、各国にとってもその重要性が増した。日米も含め、中国との経済関係を抜きに企業活動を考えることは難しい。インドネシアや中国が特定の相手だけを特別視しているわけではなく、世界経済全体の構造変化としてとらえるべきだ。
インドネシアは歴史的に「独立かつ能動的な外交」を掲げ、特定の陣営に偏らない全方位外交を進めてきた。現在のプラボウォ政権でも、その外交基本方針は変わらない。

——前任地のカンボジアでは特殊詐欺が社会問題となった。インドネシアでも日本人の関与が報告されているが、今後の対応は。
◆私の着任後はインドネシアで日本人が関与した事件は発生しておらず、現状へのコメントは差し控えたい。ただ、カンボジアでの経験から言えば、特殊詐欺グループは規制の緩い地域を狙って国境を越えて拠点を移動させる。
そのため、一国や二国間の対策だけでは封じ込めが難しい。地域全体での連携や国際機関を交えたグローバルな取り組みが必要不可欠だ。インドネシアとも協力できることがあれば取り組んでいきたい。
——カンボジアでは詐欺拠点から逃げた日本人が大使館に助けを求めた。
◆時期によってはほぼ毎日のようにあった。邦人保護は大使館の最重要任務であり、助けを求める人が来ればまずは安全を確保する。仮に犯罪に関与していた疑いのある人物であっても、公館として最初から立ち入りを拒むことはない。一時的に保護して事情を聞き、犯罪への関与が疑われる場合は日本の警察など関係機関への連絡を含め必要な対応を取る。
——再来年の2028年には外交関係樹立70年を迎える。どのような節目にしたいか。
◆具体的な構想は大使館内で議論しているが、大切なのは先人が築いた実績や友情、信頼を次の世代へ引き継ぐことだと考えている。この10年で日本社会やインドネシアを取り巻く環境も大きく変わり、国際情勢も変化した。
単なる記念行事に終わらせず、次の10年に両国がどのような関係を築くかを考える機会にしたい。大使館だけではなく、インドネシアに暮らす邦人やインドネシア側の期待、要望にも広く耳を傾けながら、70周年のコンセプトを策定していく。

——交流サイト(SNS)で積極的に発信している。
◆着任後はあいさつや行事への参加が続いたが、その様子を大使館の職員が撮影し(SNSの)インスタグラムに掲載してくれている。特にMRT(都市高速鉄道)に乗車した際の動画には、多くの反響をいただいた。
若い世代を中心に写真や動画で視覚的に伝えることは重要だ。大使個人に親しみを持ってもらうことを通じて、日本や日本の外交政策に関心を持ってもらうきっかけにしたい。こうしたSNSでの発信は、世界各地にいる日本の大使も意識していることだと思う。
——今後、インドネシアで訪ねたい場所は。
◆できるだけ地方を回りたい。最近は西ジャワ州のチカランを訪れたが、まだジャカルタでの公務が多く、遠出の機会は限られている。
前任のカンボジアでは国内25州全てを訪ねた。インドネシアは全部で38州あるので難しいかもしれないが、可能な限り足を運びたい。地域によって文化や生活習慣が大きく異なる国だからこそ、ジャカルタにいるだけでは分からない真の姿を自分の目で確かめたいと考えている。
――インドネシアの食文化の印象は。
◆何でもおいしい。ナシゴレンやミーゴレンは以前から知っていたが、鶏肉のスープ「ソトアヤム」が特に気に入っている。優しい味で日本人の口にもよく合うと思う。