交通インフラ 駅舎完成式典に大統領出席ー鉄道への継続投資を強調

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 プラボウォ・スビアント大統領は4日、ジャカルタ中心部の国鉄(KAI)タナアバン駅の新駅舎開業式典に出席した。同駅は一日あたり約4万6千人と首都圏首位の乗降客数を誇るが、終日に渡り混雑が続いていたため、改良工事が実施されていた。プラボウォ氏は人と物の輸送効率の高い鉄道整備がインドネシア全土に必要と訴え、投資を継続する姿勢を強調した。
(アジアン鉄道ライター 高木聡、写真も)

式典でスピーチするプラボウォ大統領。アグス・ハリムルティ・ユドヨノ・インフラ地域開発担当調整相、ドゥディ・プルワガンディ運輸相らも出席

■中国製車両で登場

 プラボウォ氏は式典当日、マンガライ駅から今年導入されたばかりの中国製の新型電車に乗車し会場入りした。あいさつで「インドネシアの鉄道が清潔、快適、安全で社会に欠かせない基盤だ」とした上で、地域間格差の是正、都市の住宅問題解決のために鉄道開発は重要との認識を示した。さらに、30編成分の新型電車を追加導入する予算として、5兆ルピアの用意があることを明らかにした。

 プラボウォ政権は発足からこの1年、無償給食制度(MBG)に巨額の予算を投入するものの、インフラ投資には積極性を見せてこなかった。公共事業・公営住宅省、運輸省といった前ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権をけん引していたインフラ関連省庁の予算は大幅にカットされ、鉄道プロジェクトもそのあおりを受けて幾つかのプロジェクトが凍結された。

 プラボウォ氏は「初めの1年は国家の根本の食糧問題に注力した」と振り返った上で、「次に重要なのは物流、輸送効率の高い鉄道整備が全土に必要だ」と話し、今後、鉄道を含めたインフラ投資を促進する方針を示した。式典にはアグス・ハリムルティ・ユドヨノ・インフラ地域開発担当調整相など主要閣僚も登壇し、政権全体として取り組む姿勢も強調した。

■スルポン線の開発進む

広々としたタナアバン駅の新駅舎。スルポン線電化によって不要となった機関区跡地に建設された

 タナアバン駅はコミューターラインのスルポン線と環状線の乗り換え駅。改良工事はジョコウィ前政権下の23年1月に着工し、今年6月に新駅舎が完成、営業開始していた。総工費は3380億ルピア。

 今回の同駅改良工事は、プラボウォ政権の主要課題である地域間格差の是正と都市の住宅問題解決に向けて重要な意味を持っている。同駅からバンテン州ランカスビトゥン駅(約72・8キロ)を結ぶスルポン線沿線では近年開発が急ピッチで進んでおり、利用者増加に伴い運行本数を増やす必要があった。

 改良工事はそれに備えるためのもので、増発のためにスルポン線用の線路が1線が追加された。さらに、上り電車は都心に向かう環状線スディルマン方面行きの電車と同じホームで乗り換えが出来るようになり、混雑緩和に役立っている。

■住宅政策とも連動

 スルポン線は15年ほど前までは、機関車けん引の客車列車も交じり、30分から1時間間隔程度で走るのどかなローカル線だったが、電化、複線化工事の進ちょくで、今や通勤電車がランカスビトゥンまで10分から20分間隔で運転されるようになった。

 沿線では、日本円にして1棟100~200万円程度の住宅地開発も進んでおり、現政権が進める「300万戸住宅プログラム」とも結びついている。

 KAIは本数を増やしたいが、同線の信号制御はいまだに「手動」で、駅長の判断で信号を切り替える原始的なシステム。運転間隔は最小でも10分と他路線よりも運行本数が少なくならざるを得なかった。今回のタナアバン駅の改良で自動信号化及び電力増強プロジェクトが進行するとみられる。

■行商列車、復活か

スルポン線上り電車(タナアバン止まり)と環状線スディルマン方面の電車は同じホームで乗り換えが可能になった

 スルポン線の線路は、ランカスビトゥンから先、非電化区間としてジャワ最西端のムラクまで(約68・4キロ)つながっている。沿線は農村地帯であり、かつては行商人を満載した客車列車がジャカルタまで直通していた。しかし、政府の近代化政策で行商人の乗車が禁じられた。

 プラボウォ氏は、この行商列車を今、復活させようとしている。車両は既に完成しており、式典前に大統領はマンガライ駅で視察している。今月中旬ごろまでの運転開始を目指しており、政権のアピール材料になることに間違いない。

「先行者利益」生かせず

プラボウォ大統領は5兆ルピア規模の新車両導入を発表した

 日本政府は2014年、今回のスルポン線の改良工事を含む「ジャカルタ首都圏鉄道輸送力増強プロジェクト」として163億2200万円を上限とする円借款契約をインドネシア側と結んでいる。この計画では追加の車両調達など、本体着工分として約125億円の予算が確保されていたが、未執行のまま、貸付期限の来年6月が近づいている。

 円借款契約に基づく車両導入であれば、未払いなどのリスクが低いため、日本企業が関心を持った可能性が高い。

 しかし今回、プラボウォ大統領が円借款を使わずに新車導入に5兆ルピアの国家予算を付けると表明したことで、中国など他国の車両と同じ土俵で戦わざるを得なくなった。

沿線に豊かな自然が残るスルポン線だが、宅地開発が急ピッチで進む。同線はBSDへのアクセスとしても使える

 円借款の半分以上が未執行となったことについて、「政治レベルで契約が締結されたが、インドネシア側の実務者レベルの間では、高度な技術を用いない、既存路線の改良ならば、自国の企業や予算で十分に実行できるという認識になっていた」(関係者)。 

 経緯はどうあれ、当初は日本製車両の導入も視野に入っていたプロジェクトなだけに、「先行者利益」がなくなってしまった格好だ。今後、日本企業が盛り返し、日本製車両が導入されるかどうかに注目すべきだろう。