インタビュー 日尼の強い絆を、インドネシアの前進へーJJC佐藤健治新理事長インタビュー
ジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC)の理事長に新たに就任した佐藤健治三菱UFJ銀行ジャカルタ支店長が5日、ジャカルタ日報のインタビューに応じた。企業や在留邦人社会の環境が大きく変化する中、佐藤氏はJJCを単なる交流の場にとどめるのではなく、会員の声を整理・分析し、判断材料として還元する「実用的なプラットフォーム」として機能させていく必要性を強調した。 (ジャカルタ日報編集長 赤井俊文、写真も)

——就任にあたっての抱負を。
◆インドネシアにおける日系企業の事業環境、そして在留邦人の生活環境は、最初に赴任した10年前と比べて大きく変化している。今回が2度目のジャカルタ駐在になるが、今は転換点の一つにあると感じている。
インドネシアは世界第4位の人口規模と内需を背景に、中長期的に大きな成長ポテンシャルを持つ国だ。
近年は産業高度化や資源下流化、脱炭素・再生可能エネルギーを含むエネルギー転換といった政策も進展している。成長のあり方や日系企業の事業環境、在留日本人社会を取り巻く前提条件そのものが変わりつつある中、JJCを会員に役立つ「実用的なプラットフォーム」として機能させていきたい。
具体的には、個々の枠を超えて課題を共有し、対話や提言につなげる「共創の場」としてJJCを機能させていきたい。それにより、日本とインドネシアの関係強化と企業・社会活動の発展につなげていく。
——10年前と比べた社会の変化は。
◆最初のジャカルタ駐在は2013年から15年までで、営業次長として勤務した。当時はジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権の初期にあたり、インフラ開発が一斉に動き出した時期だった。空港、地下鉄(MRT)、高速道路などの整備が一気に進められ、渋滞や混乱も多かった。一方で、自動車関連を中心に日系企業が勢いよく進出していた。

——今回戻ってきての感想は。
◆空港や高速道路が整備され、MRTも開通してインフラ面での変化はとても大きいと感じた。移動環境は相当改善されたと思う。特にスディルマン通りの周辺は以前と比べ見違えるようだ。都市の移動環境は大きく改善された。
——会員向け情報の集約・還元をどう進めるか。
◆JJCにある各組織を横断して情報を共有し、異なる角度から議論できるようにしていくことが重要だ。
現在は情報が各部会にとどまって「サイロ化している」との指摘もある。課題となる分野や業種ごとの専門性は当然重要だが、JJCは日系企業にとって共通基盤でなければならない。同じ課題であっても、金融と製造業では同じ課題でも見え方が異なる。多様な視点を束ねて共通認識を形成し、会員の経営判断に資する情報をタイムリーに還元していく。
——昨年度に誕生した東部エリア部会は。
◆東部エリアには5つの日系工業団地を中心に、多くの製造業や商社、工業団地関係の企業が集まっている。こうしたエリアは実務上の課題が最も早く顕在化する現場だ。
東部エリア部会は、そうした現場の課題を拾い上げる重要な場として昨年設置した。JJCとしては、実践につながる講演会や工場見学、ビジネスマッチングなどを通じて、企業間、さらには個人間の対話や連携を、具体的な行動や判断につなげるためのネットワークとして機能させていきたい。
——インドネシアの課題をどう見るか。
◆インドネシアは今も「ポテンシャルの高い国」と言われているが、規制運用の不透明さや突然の制度変更は大きな障壁だ。外資企業にとっては準備期間や透明性が重要で、突然の制度変更は事業判断を困難にする。また、上昇を続ける人件費も工場を持つ企業には強い圧力となっている。JJCとしては、これらを個別企業の問題とせず、背景にある構造的課題を見極めたい。他国の商工会議所とも足並みをそろえ、政府への建設的な提言を継続していく。
——プラボウォ政権下の投資環境については。
◆インフラ投資の規模こそジョコウィ前政権期に比べて限定的との見方もあるが、政策決定のスピード感は評価できる。
政府系投資ファンド「ダナンタラ」などを通じたリスクマネーの供給が機能すれば、インフラやスタートアップ分野で民間資金を流入させる呼び水になると期待している。

——3月末、プラボウォ大統領が訪日した際の投資合意をどう受け止めているか。
◆ビジネスフォーラムにパネリストとして参加し、大統領の演説も現地で聞いた。
あれだけの規模の投資案件が示されたことは、日本とインドネシアの官民協力が新たな段階に入ったことを象徴する動きだと受け止めている。
重要なのは、これを一過性で終わらせないことだ。インフラやエネルギー分野を中心に、現場レベルで具体的な波及効果が生まれるよう、JJCとしても必要なサポートを行っていきたい。
——プラボウォ大統領の印象は。
◆これまで2度お目にかかったが、いずれの場面でも共通して感じたのは圧倒的な存在感だ。大統領が会場に入った瞬間に空気が引き締まるような迫力が際立っていた。
——インドネシア政府が進める車の電動(EV)化の影響は。
◆インドネシアが電動化を重視していることは確かだが、ある日突然、全てがEVに切り替わることは非現実的だ。当面は既存のガソリン車やハイブリッド車が大半を占め、そこには依然としてビジネスチャンスがある。
——中国・韓国企業の台頭については。
◆中国や韓国企業との競争は激しさを増しており、これまで以上にスピード感と価格競争力が重要になっている。日本は技術や品質面、雇用の創出などで現地に貢献を続けてきた。インドネシア側からは「これまで中国を優遇しすぎていたが、日本にも目を向けたい」という声も聞かれる。経済合理性や価格、意思決定のスピードのバランスが、以前より強く求められていると思う。
——中堅・中小企業のインドネシア進出をどう支援するか。
◆先行して進出した企業の経験や苦労をJJCは蓄積している。これらを可視化し、会員や加入検討中の中堅・中小企業へ共有することで、進出時のリスクを最小化する形で協力していきたい。
——中東情勢の影響は。
◆少なくとも東南アジアの中では、インドネシアは相対的に耐性のあるポジションにある。国内に豊富な石炭資源を有し、自国資源による発電が可能なため、中東依存度の高いLNG(液化天然ガス)や石油供給の混乱が、電力供給に直結しにくい構造だからだ。
これは、短期的なエネルギー安定性という観点では大きな強みであり、中東情勢の緊迫化に伴う急激な供給制約リスクはある程度抑えられている。
一方で、燃料価格や物流コスト、為替を通じたコスト面での影響は避けられない。企業収益や投資判断への波及は引き続き注意が必要だ。
——現在のルピア安をどう見ているか。
◆1ドル=1万7000ルピア台半ばまで迫っているが、過度なルピア安は物価上昇につながるため、徐々に落ち着いていくことを期待している。
海外投資家は、インドネシアの財政規律が維持されるかどうかを注視している。外貨準備は十分な水準にあるが、財政赤字や財政運営への信頼は重要なポイントだ。また、株式など資本市場の透明性や公平性も課題だろう。
かつては日本でも、海外機関投資家が厚く入る市場になるまでにバブル経済崩壊から20年以上を要した。インドネシアも銀行中心の間接金融から、直接金融に厚みを持つ構造へ移行していけば、金融市場全体の安定性は高まる。これは15年、20年という時間軸で見ていく必要がある。
——個人部会の会員獲得については。
◆個人会員を一気に増やすのは容易ではない。まずは既存会員にとって、JJCに入っていることのメリットや参加価値、実務的な価値を高めることが先決だ。その結果として、口コミなどを通じて会員基盤を維持・拡大するのが望ましい。今年4月からは個人部会の会費を半額以下に引き下げた。これも加入を後押しする一助になると期待している。