坂村さんに聞く 海外クライシスのツボ 坂村さんに聞く 海外クライシスのツボー第4回 大停電にどう備える?

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 途上国の都市部で暮らす企業駐在員や家族にとって、停電は決して珍しいリスクではない。しかし、一口に停電と言っても実際には大きく二つに分けて考える必要がある。一つは、日常的に起きる短時間の停電。もう一つは、広域で数日間にわたって続く災害級の大停電だ。前者では機器の故障や火災を防ぐ備えが重要になり、後者では水や食料、通信、避難先まで含めた危機管理が求められる。

高層階で長時間の停電に耐えるのは難しく、ホテルなどへの避難も視野に入れる必要がある=Shutterstock

 アマンさん(以下、ア) インドネシアなど途上国の都市部では、短時間の停電がよく発生します。深刻に捉える必要はないのでしょうか。

 坂村さん(以下、坂) 短時間であっても、頻繁に起きる場合にはリスクがあります。特に怖いのは、電源のオンとオフが繰り返されることで生じる電子機器の損傷です。また、電力が復旧した瞬間にショートし、火災につながることもあります。

 ア 具体的にはどのような備えが必要ですか。

 坂 まず、電圧安定器やサージプロテクターを用意しておくと安心です。パソコンや通信機器、家電などを守るためです。データのこまめなバックアップも欠かせません。「停電でデータが消失しても業務が止まらない」状態を作っておく必要があります。発電機を備えたカフェやコワーキングスペース、ホテルのラウンジなど、いざという時の避難先を平時から把握しておくことも大切です。

 ア 計画停電のように、停電の時間帯が事前に分かる場合はどう対応すべきでしょうか。

 坂 「通電している時間帯に何を行うか」を事前にリスト化しておくことです。洗濯を済ませる、スマートフォンやパソコン、モバイルバッテリーを満充電にする、Wi―Fi環境があるうちに重要なデータ通信を完了させる――。こうした行動リストを定めておけば、直前に慌てることはありません。

 ア 一方で、数日間続くような大停電となれば考え方が変わりますね。

 坂 全く異なります。広域で数日間続く停電は、「災害」として考えるべきです。例えば、2012年のインド大停電では、北部と東部で送配電システムが次々と崩壊し、復旧までに数日を要しました。影響を受けた人は約6億人に上ったとされています。この規模になると、単に「電気がない」という問題では済みません。

 ア 家庭では、まず何を備えるべきでしょうか。

 坂 最初に必要なのは、照明と通信手段の確保です。電池式のLEDランタンや充電式ライト、そしてモバイルバッテリーは必須です。現代社会では、通信と安全は強く結びついています。携帯電話が使えるかどうかで、情報収集も、家族や会社との連絡も大きく変わります。

 ア 携帯電話の充電はかなり重要ですね。

 坂 その通りです。普段からモバイルバッテリーを充電しておく習慣が求められます。さらに、携帯電話の充電が完全に無くなった場合に備えて、電池式や手回し式のラジオを用意するのも有効です。停電が長期化すれば当局が外出制限などの措置を取る可能性もあります。そうした情報を得る手段を確保しておくことが重要です。

 ア 水の問題も深刻になりそうです。

 坂 水は最も重要です。都市部の水道システムは電動ポンプに依存していることが多く、停電によって給水が止まる恐れがあります。飲料水だけでなく、調理や手洗い、トイレなど最低限の衛生維持のためにも水は必要です。停電が長引く前提で、早めに確保しておくべきです。

 ア 食料についての注意点は。

 坂 冷蔵庫への依存をできるだけ減らすことです。レトルト食品や乾燥食品、缶詰など、常温で保存できるものを用意しておく必要があります。停電が続くと冷蔵庫や冷凍庫の中身は傷みます。特に冷凍庫は中身が溶けて水浸しになることもあるため、過信せずに早めに処理する方がよいでしょう。

 ア 都市部の高層マンションでは、停電の影響はさらに大きくなりそうです。

 坂 タワーマンションは、停電に対して極めて脆弱(ぜいじゃく)です。水を上層階まで送るには電動ポンプが必要なため、もしこれが止まれば水は自分で運ぶしかありません。エレベーターが動かないと、ペットボトルの水を階段で何十階も運ぶことになります。

 ア 想像するだけで大変です。

 坂 はい。それだけではありません。館内空調も止まります。また、もし火災が起きた場合、排煙設備が機能しないことも想定しなければなりません。

 ほかにも、自動管理の駐車場ゲートが動かないため車が出せない、給排水ポンプが停止してトイレが使えないといった問題も起こります。  

 ア タワーマンションで長時間の停電に耐えるのは、相当厳しいですね。 

 坂 率直に言ってとても困難です。インフラが途絶えた高層階で耐えるよりも、電気や水が確保されているホテルなどへ一時的に避難する方が現実的な場合があります。車もエレベーターも使えない状態で、水や食料を大量に運び、冷蔵庫も使えず、トイレも不安定となると、生活を維持するのは非常に難しくなります。

 ア インドネシアでそこまでの事態が起きる可能性はありますか。

 坂 現時点で、極端な長期大停電を過度に恐れる必要はないと思います。ただし、停電そのものは十分に起こり得ます。

 大切なのは、想定を二段階に分けることです。日常的な短時間停電には機器保護、データ保全、火災対策、代替作業場所の確保で備える。数日間の大停電には水、食料、通信、照明、トイレ、避難先まで含めて備える。この二つを混同しないことが重要です。


◇坂村史帆さんの経歴

 東京大学大学院を修了後、外資系コンサルティング・ファームで地政学リスク分析と企業の危機管理に12年間従事。専門分野は、国際紛争、テロ、治安情勢。米国やインドなど世界10カ国以上で講演実績。

 地政学リスクやリスクマネジメントについての講演や相談の依頼は infopod20
18(アット)gmail.comまたは、noteのページ(https://note.com/transitessay/n/n1b666e2e63f7)まで。