インドネシアニュース 國井大地のインドネシアM&A最前線ー第1回 東南アジア進出、「自前主義」の限界突破を
東南アジアにおける企業の合併・買収(M&A)の実務や留意点について、現地での豊富な仲介・成約実績を持つ専門企業、リデルタの國井大地社長による連載を本日から月2回のペースで掲載します。これまで多くの案件を成約に導いた國井氏が、インドネシアの事例を基に詳しく解説します。

東南アジアにおける日系企業の事業展開は、いま転換点にあると感じている。これまで日本企業は、海外進出に際して現地法人を設立し、自ら事業を立ち上げる「自前主義」を基本としてきた。しかし、東南アジア市場では、このモデルの限界が見え始めている。
■迫られる「時間の購入」
最大の課題は「時間」だ。現地でゼロから事業を立ち上げるには、人材の採用・育成、商習慣の理解、顧客や取引先との関係構築など、多くの時間を要する。事業が軌道に乗るまで10年近くかかるケースも珍しくない。一方で、東南アジア市場は人口増加と所得向上を背景に成長を続け、競争も激化の一途をたどっている。市場は、企業がじっくり育つのを待ってはくれない。
こうした中で、現実的な選択肢として浮上しているのが「M&A」だ。既存の現地企業を買収すれば顧客基盤や流通網、人材、ローカルネットワークまで一括して取り込むことができる。いわば「時間をお金で買う」という発想である。
東南アジアでのM&Aは、日本国内の成長投資とは少し性格が異なる。国内では前向きな拡大戦略として用いられることが増えているが、東南アジアでは「自前で立ち上げるのが難しいから買う」という動機が強い。過去に現地進出で苦戦した企業ほど、この必要性を実感している。文化や商習慣の違い、人材マネジメント、ローカルネットワーク構築の難しさは、日本企業にとって大きな壁だからだ。
■VCマインドが重要
もちろん、M&Aが全てのケースで最適解になるわけではない。ただ、東南アジア進出を考える企業にとって、真剣に検討すべき選択肢になったのは確かだ。私の体感では、進出を検討する日系企業のうち、M&Aを選ぶ割合は約3割程度に上る。まだ多数派ではないものの、確実に存在感を持ち始めている。
一方で、M&Aには高いリスクもある。10件投資して1〜2件成功すれば良い方であり、残りの案件は減損処理や当初の期待未達に終わるケースも多い。この数字だけを見れば合理的な投資に映らないかもしれない。しかし、成功案件のリターンが大きければ、全体として利益を生むことができる。これはベンチャーキャピタル(VC)投資に近い考え方と言える。
これに対して日本企業は、伝統的に1件ごとの投資に対して高い「確実性」を求める傾向が根強い。特に非オーナー経営者の場合、任期中の業績評価を意識し、減損リスクを避けやすい。個人としては合理的な判断だが、企業全体の成長機会を狭める要因にもなり得る。
■まずは小さな一歩から
そのため、最初から大きく投資する必要はない。数億円規模の小さな案件から始め、経験を積みながら規模を広げていくことが重要だ。M&Aの要諦は理論だけでは身につかない。案件の見極めや買収後の経営統合、現地人材との関係構築は実際に手を動かす中でしか学べない。
東南アジア市場は不確実性が高く、情報の非対称性(売り手と買い手の情報格差)も大きい。個別案件の成否を事前に100%予測することは不可能に近い。だからこそ、複数の案件に分散して取り組み、全体としての戦略を設計する姿勢が欠かせない。
重要なのは、進出の「目的」と「手段」を切り分けることである。東南アジアで事業を成功させるために、必ずしも自前にこだわる必要はなく、スピードと確実性を重視するなら、既存企業を取り込む方が合理的な場合もある。「まず小さく1件、実践してみる」。その一歩が、その後の選択肢を大きく広げると考えている。