インタビュー 島々をつなぐ通信、インドネシアの成長へーインタビュー NECインドネシア片野新社長
NECインドネシアの社長にこのほど就任した片野暁史氏が、ジャカルタ日報のインタビューに応じた。片野氏はインドネシアについて「人口規模と若さを背景に大きな潜在力を持つ重要市場」と強調し、島しょ国家である同国の発展には海底ケーブルを中心とした通信インフラの強化が欠かせないとの認識を示した。また、スマートシティー、防災・公共安全、工業団地のデジタル化、金融分野の認証・サイバーセキュリティーなどを今後の重点分野に掲げ、「通信は社会課題解決の土台になる」と語った。(ジャカルタ日報編集長 赤井俊文、写真も)

■インドネシアは初赴任
——NECにとって、インドネシアはASEAN(東南アジア諸国連合)の中でどのような位置付けか。
◆非常に重要な市場だ。人口規模が大きく、市場としての潜在力も高い。加えて、通信インフラ、特に海底ケーブルの観点からも重要だ。インドネシアは海洋国家であり、海底ケーブル網の要衝に位置している。私自身、以前マレーシアで勤務した経験があり東南アジアには親近感を抱いている。インドネシアは平均年齢も30代前後と聞いており、人口規模と若さから来るダイナミズムを感じている。
——インドネシアは初赴任か。
◆10年ほど前にマレーシアの現地法人に駐在していたこともあり、インドネシアには出張で来たことはあったが、駐在という形では今回が初めてだ。
——インドネシアは島しょ国家で、東西にも広い。
◆島が多いため、政府としても国の隅々まで通信網を張り巡らせることが重要課題だ。そのニーズに対して海底ケーブルという手段を提供できる。島と島をつなぎ、通信環境を整備していくことが求められている。
——海底ケーブルは技術的なハードルも高い。
◆日本企業でグローバル規模の海底ケーブル事業を展開しているのはNECだけだと認識している。世界的に見ても対応できる企業は限られており、欧米系の企業などと市場を分け合っている状況だ。最近は中国企業の参入も進んでいる。
——NECの強みは。
◆インドネシアなどの地域では今も「メイド・イン・ジャパン」で対応している。日本国内で製造したものを世界各地に持っていく形だ。海底ケーブルは一度海に敷設すると容易に交換できず、10年以上の長期運用が前提となる。そのため、品質と信頼性が極めて重要だ。そうした点を顧客から評価いただいていると考えている。
——価格よりも品質が問われる分野か。
◆もちろん価格も重要だが、海底ケーブルは品質の担保が極めて重要な分野だ。単に安価であればよいというものではないく、お客様もその点を認識のうえ購入いただいていると思う。保守や障害発生時の修理ノウハウも含め、長年の実績が強みになっている。
——経済安全保障上の重要性も増している。
◆その通りだ。以前はそこまで強く言われていなかったが、今は経済安全保障上の重要性が格段に高まっている。通信が切断されれば社会や経済への影響は極めて大きい。日本政府などとも連携しながら、そうしたリスクが生じないよう進めていくことが大事だ。
■テルコムと「伴走する」

——国営テルコム・インドネシアとは長年協力関係にある。
◆通信の需要は国の発展に伴って今後さらに拡大していく。テルコム・インドネシアとは、そうした通信ニーズに伴走する形で取り組んでいきたい。特に注力したいのはやはり海底ケーブルだ。島しょ国家であるインドネシアで、島と島を確実につなぐことが大切だ。
——衛星通信や無線で代替できない理由は。
◆衛星や無線も有効手段だが、大容量で安定した通信を確保するという意味では、海底ケーブルが最も適している。動画配信や人工知能(AI)、データ利用の増加で必要な通信帯域はさらに大きくなる。「単につながればいい」という段階から、回線を重層化し、冗長性を確保する段階に入っていくと思う。
■新首都でも実証

——新首都ヌサンタラ(IKN)を含むスマートシティー分野では、テルコム社と覚書(MoU)を結んでいる。
◆特定の分野に狭く限定したものではなく、比較的広い意味で捉えられる内容の覚書だ。裏返せば、さまざまなことができる機会だと考えている。
——優先する分野は。
◆防災や公共安全だ。NECは日本でも「社会価値創造企業」を掲げ、社会的価値を作ることを重視している。そうした使命と合致する分野として、防災や公共安全は重要だと考えている。
——公共安全とは具体的に何を指すのか。
◆例えば交通監視だ。逆走している車両など、通常とは異なる動きを検知し、その情報を収集・提供するような仕組みがある。もちろん、その情報をどのように使うかは利用者側の判断になるが、まずは異常を検知し、情報として提供することが重要だ。
——防災分野では。
◆インドネシアでは洪水被害が頻発しており、災害監視システムなどへの需要がある。IKNに限らず、地方都市でも防災、安全、交通といった分野は重要だ。詳細は控えるが、複数の案件が進行している。
——地方では予算面が課題になりそうだ。
◆その通りだ。スマートシティーやDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みは、依然としてコストとして捉えられることが多い。将来への投資という認識が十分浸透していないケースもあり、意識改革も課題の一つだ。
■GIICでの取り組み

——デルタマス・シティ(西ジャワ州)にある工業団地「GIIC」では、どのような取り組みを進めているのか。
◆課題としては、まず取り組みの意味を理解してもらい、次の投資につなげてもらうことだ。ハードウエアというより、人の意識や考え方を変えていく必要がある。
成果として見えてきたのは「インタラクティブ性の高さ」だ。瞬時に情報が上がり、その情報をどう管理していくかが付加価値になる。そこにさらなる改善を重ねることで、新たなニーズの掘り起こしにつながると考えている。
——具体的にはCCTV(監視カメラ)の活用か。
◆そうだ。CCTVは最初に取り組んだ重要な分野の一つだ。ただカメラを設置するだけではなく、NECの解析技術を組み合わせることで、異常な状況や行動を検知できる。
防犯面では、侵入や盗難などを検知に活用できるが、それだけではない。工場にいる従業員の作業動線や効率性を把握し、業務改善につなげることも可能だ。映像からの行動データを活用することで工場運営の効率化に貢献できる。
——生産ラインのボトルネックや非効率を可視化することもできる。
◆防犯に加え、工場の効率化など幅広い用途がある。ワークショップなどを通じて顧客の理解も進んでいる。一方で課題も見えてきており、今後は顧客とともに改善を重ねていく段階だ。
——GIICでのモデルを他の工業団地や地域に横展開する可能性は。
◆機会があれば、どんどん拡張していきたい。
■金融分野でも需要
——製造業のDXで、インドネシアの課題は何か。
◆最大の課題の一つは人材だ。システムを導入するだけではなく、ソフトウエアやデジタル技術を活用できる人材をどう育てるかが重要になる。
——金融、認証、サイバーセキュリティー分野の需要は。
◆金融取引では個人向けサービスでも二段階認証のような仕組みが一般的になってきている。NECとしても、認証技術を生かして顧客ニーズに応えていきたい。
企業向けではセキュリティーの担保が極めて重要だ。NECは日本国内で金融機関向けシステムを多数手がけてきた。そのノウハウを生かし、インドネシアでも事業を拡大したい。日系金融機関だけでなく、現地金融機関との取引拡大も目指している。
——インドネシアではデータセンター需要も拡大している。
◆当然、当社の事業とも関係してくる。データセンターが増えればデータ流通量も増加し、通信需要も高まる。さらに扱うデータによっては、一般回線ではなく専用線が必要になるケースもある。そうした需要にも対応していきたい。